英作ハイク -入門-

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俳句部門
選者
稲畑汀子 松澤昭 鷹羽狩行 木暮剛平 坊城中子
阿部完市 永田龍太郎 山崎ひさを 倉橋羊村 津根元潮
大久保白村 宮津昭彦 吉村ひさ志 山田弘子 加藤耕子 渡辺勝
国際俳句交流協会賞

もつれ合ふ蛸を解きてはセリ進む
香川はじめ

 

私も宮古(岩手県)の魚市場で同様の光景を目にしたことがあるが、この句はその時のことを思い出させるものがあり、共感を覚える。蛸は、動こうとする際に物に掴まったり離したり、まさにもつれ合いながら「のたくる」のである。競りに合っている最中、蛸は競り人の腕に巻きつき、競り落とされるやその腕を離れる。私がこの句を第一等に選んだのは、これが美しい魚介類を扱ったものではなく、蛸を題材にしたものであることが理由だ。作者は、蛸の性質を見事なまでに的確に捉えている。(津根元潮)


羅生門跡に蚊柱立ちにけり
山田七十

 

この句は、黒澤明監督による映画「羅生門」を想起させる。羅生門は、奈良・京都の古都を守るために建てられたものである。俳句では、大きな物体を対象として扱う場合に、躍動感を出すために小さな物を対照させて詠み込むという技法が効果を発揮することがあるが、この句においても、蚊柱と巨大な羅生門の組み合わせがよいアイディアとなった。味わい深く、ノスタルジックな一句である。(津根元潮)


草刈って地球が軽くなりにけり
渡辺美智子

 

「草刈り」は秋の季語だ。草刈りの後の出来事を詠んだ俳句は数多くあるが、この作者の「地球が軽くなった」という実に壮大なアイディアが面白い。私は、この俳句のように大げさとも言える表現を用いるのもすばらしいことだと思っている。非常に面白い一句である。(津根元潮)


国際俳句交流協会準賞
早稲の香の中七尾線ゆきどまり
藤島咲子

 

この句からは、いずれも能登の内灘の七尾の田園風景を詠んだ俳諧の付句や細見綾子の句が想い起こされる。七尾の田舎の風景と近くの温泉の気持ちよさを思い出させる一句だ。(津根元潮)


登山靴提げて国際線の客
鈴木大林子

 

実に面白い。現代は国際化社会である。空港に出かけても、誰が国際線の客で誰が国内線の客かなど、見分けはつかないはずである。ちょっと人を驚かせるような視点を持った一句である。(津根元潮)


俳人協会賞
イグアスの水煙高く虹呼びぬ
笹倉潤

 

すばらしい一句。イグアスの滝は南米にあるが、この俳句はナイアガラの滝も連想させる。その広さと立ち上がる水煙。地球は私たちにかくも美しい自然を残してくれた。無駄が一切感じられない句である。(津根元潮)


現代俳句協会賞
握りたる鉄棒あつし終戦日
鳥飼栄美子

 

この句に描かれた情景を、私は本当に実感できる。作者は、「終戦記念日」という言い回しを避けながら、まさに終戦のその日を忘れてはならない日として静かに主張しているかのようだ。この特別な日に触れた鉄棒の熱さが心を打つ。(津根元潮)


日本伝統俳句協会賞
秋晴の空を傾けピサの搭
天岡宇津彦

 

ピサの斜塔は最近改修されたが、まっすぐに立つようにはされなかったとのこと。塔そのものの価値より傾いた塔という意外性が受けているのだ。秋の晴天の日の空に傾くようにそびえ立つ塔。実に力強い表現だ。(津根元潮)

ハイク部門
選者
星野恒彦、柴生田俊一
特選 (Special Prize)
Alenka Zorman
(Slovenia)
アレンカ・ゾルマン
(スロベニア)
a cargo ship
how weightless
in the flock of gulls
貨物船が
なんと軽々と
鴎の群れの中に

 

この貨物船は積荷を下ろして、喫水線も浅く、港に停泊しているのだろう。しかし、そうした事実のためではなく、鴎の群れの中にあるために、船がかるがると浮いている印象を読者に与える。貨物船と、海面にふわりと浮んでいる白い水鳥の群れとの対比がよく効いているのだ。
句中に動詞が1つも使われていない点も注目される。(星野恒彦)


Tomislav Z. Vujcic
(Yugoslavia)
トムスラヴ・Z・ヴジュスィック
(ユーゴスラビア)
two scarecrows -
one in the field
and I in the village
案山子がふたり
ひとりは畑に
おいらが村に

 

ユーモラスでやや自嘲的な句。村の働きのない男は、怠け者というより、職が見つからないのではなかろうか。作者がセルビア共和国人と知ると、そんな同情的な推測をしたくなる。短い中での、対句的表現も巧みだ。(星野恒彦)


Duvivier
(Belgique)
ドゥヴィヴィエ
(ベルギー)
small butterfly
in the whirlwind of the wind
last day of summer
小さな蝶が
突風の渦巻きの中に
夏の最後の日

 

か弱い蝶が強風の渦巻きに捉えられる。蝶は死ぬだろう。秋風が1日早く吹き始め、あらゆる生き物が生命を謳歌していた夏も終ったのだ。大きなものと小さなもの、強いものとか弱いものとの対比。
日本では、蝶は春の季語だが、欧米では一般に夏の季語。人間の希望・思惑などは、自然の意志の前に無力であることを、渦巻きの中の蝶が象徴している。(柴生田俊一)


Michael Nickels-Wisdom
(USA)
ミカエル・ニケルズーウィズダム
(アメリカ)
war approaching,
a butterfly's wing
blown along
戦争が近い
蝶の羽が
風に流される

 

強風に蝶の羽が力なく運ばれていく。小さな羽には、今起きていることを止める力がない。戦いに吹き払われて傷つく小さな生き物(そして、人間)。
とても伝統的なハイク・イメージだが、1行目と2・3行目の取合わせが働いている。
9・11事件以後のアメリカ人の心情がよく表われている。(柴生田俊一)


入選 (Honourable Mentions)
Gene Williamson
(USA)
ジーン・ウィリアムソン
(アメリカ)
autumn night
campfire ashes flicker
among the stars
秋の夜
キャンプの焚火の灰がまたたく
星の中で

Michael Dylan Welch
(USA)
ミカエル・ディラン・ウェルク
(アメリカ)
chambers pulsing
in the washed-up jellyfish -
waning moon
うち上げられた水母の
体内の房が脈打つ -
欠けていく月

L. A. Davidson
(USA)
L. A. ダヴィッドソン
(アメリカ)
a distant boat
not noticed until a sail
is raised to the wind
風に立てし帆で
それと知る
遠き舟

Darko Plazanin
(Croatia)
ダルコ・プラザニン
(クロアチア)
only the wind
can step across
the minefield
風だけが
踏んで行けるよ
地雷源

Zoran Doderovic
(Yugoslavia)
ゾラン・ドデロヴィック
(ユーゴスラビア)
school vacation -
shadows of pupils' cups
resting on the wall
学校は夏休み
生徒たちのコップの影が
壁に休んでいる

Marinko Spanovic
(Croatia)
マリンコ・スパノヴィック
(クロアチア)
with the sunrise
a gang of bikers jerks into
blossoming cherries
曙光とともに
オートバイのギャングたちが突っ込む
満開の桜畑に

Katherine Samuelowicz
Australia)
カザリン・サミュエロウィクズ
(オーストラリア)
moonglazed night
visiting house after house
my shadow
月が煌々と照らす夜
一つ一つ家を訪ねる
私の影

Zlata Volaric
(Slovenia)
ズラタ・ヴォラリック
(スロバニア)
the wind is the mailman
today — down the street he carries
various advertisements.
風は郵便配達夫
今日は下の通りから持ってくる
色んな広告