 
McMaster, Visnja (Croatia)
マクマスター、ヴィニア(クロアチア)
| back empty-handed |
若草の萌える草原から |
| from the bursting meadow: idle |
手ぶらで帰る |
| ikebana bowl |
生花の花器は空っぽのまま |
花器は空っぽ野の花摘むをためらえば
俳句を作るということはきれいに生け花をいけるのと同じくらい繊細な作業である。この俳句にはみごとな技巧と抑制が感じられる。
一語一語の効果を緻密に計算してたいへん慎重に暗示的な言葉を使っている。「bursting」(=萌え出る)の1語などそのよい例であろう。この1語は単に限られた季節や風景を表現するだけでなく、「この俳人がこの詩を作った理由」も示している。
また、「idle ikebana bowl」(=空っぽのままの生け花の花器)という1節も効果的だ。
さらに一句の中の句切れが非常に優れているため、含蓄のある間を生み出すことにも成功
している。最も繊細で巧緻な表現を用いた好例である。
Kathy Lippard Cobb(USA)
コブ、キャシー L. (アメリカ)
| untended garden-- |
荒れ果てた庭・・・ |
| the old man’s unsteady hand |
老人の震える手が |
| adds red to the rose |
薔薇に赤を加える |
薔薇真っ赤老人の手は頼りなし
明瞭で鮮やかな句。一読でとりこになる風景が描かれている。
句の対称に愛情を注ぎ、仔細に観察した結果生まれた句である。「老人」と「手入れのされていない荒れ果てた庭」とがすばらしいハーモニーを生み出しており、強く胸に迫ってくる。庭は手入れが行き届かず荒れ果てているのに、「老人」も真っ赤な「薔薇の花」も夏を
力強く生き抜いている。模範的な句である。
Celia Stuart-Powles(USA)
ステュアート・パウルス、シリア(アメリカ)
| Barely contained |
ビロードの薄皮の中に |
| in its thin velvet skin |
かろうじて包まれている |
| - soft fragrant peach |
ほのかに香る桃 |
熟れ桃やビロードの肌はちけそう
すばらしい俳句。一つの桃の美しさをその鋭く繊細な感性で捕らえた作品。
句の内容や視点の絞り方、表現方法のいずれもが斬新だが、それにもかかわらずこの句は生命力に満ち溢れストレートに胸に迫ってくる。実際に自分の目や鼻で色や香りを体感したその一瞬がとても鮮やかに描かれている。熟した桃の際立った「あるがまま(の本質)」を限られた音節の中で表現するのはたいへんなことだ。
俳句は「自然を写生する詩」だが、名句と呼ばれる句は作者の心情も同時に表現しているものだ。はちきれんばかりに熟した桃の手触りや香り、そういった感覚を超えてもっと深いテーマを暗示しているような一句だ。
芭蕉が唱えたように、こういった暗示の積み重ねにより俳人と句の対象は密接につながり一体となるのだ。
Lesly Lendrum(Scotland)
レンドラム、レスリー(スコットランド)
| A broken nutshell |
砕けた木の実の殻と |
| and a twisted root remain |
ねじれた木の根が残っている |
| where the hazel grew |
ヘーゼルナッツの木があったところに |
切り株やヘーゼルナッツの皮こぼれ
この俳句はその繊細さでほかの句と一線を画している。句の繊細さが世俗的なものを品位あるものに高めた好例である。この作者は俳句作りの本質を明確に理解している。
伝統的な俳句の詩型を上手に用いて禅宗の教え「あるがまま」の精神をたっぷりと吹き込んだ風景を描いている。この句の持つ荒涼とした憂鬱な雰囲気は、失ったものに対して我々が抱く感情にぴったり寄り添ってくる。すでに存在のないものに視点を当てるとはなんと挑戦的なことだろう。そしてこの句の場合、なんと見事な成功をおさめていることだろう。
Jim Kacian(USA)
ジム・ケーシアン(アメリカ)
| sitting in the wheelbarrow |
猫車に座る |
| with the potatoes |
ジャガイモと一緒に |
芋と子を乗せ猫車帰路に着く
忘れられない1句である。この句はある種の滑稽さ、ほほえましさを通り越して美しい。1日の終わり、収穫に疲れた農夫がひと時の憩いに猫車に腰を下ろしたのだろうか?それとも眠くなった子供を乗せて家路についたのだろうか?
どのような解釈であれ、この句の中には大地と重労働を通して生き抜いて行く生命のオーラが溢れている。ゴッホの初期の作品に描かれた農夫の生活が偲ばれるような・・・気の遠くなるように美しい絵画的な美しさがそこにはある。


 
 
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