英作ハイク -入門-

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「愛好10句」金子兜太抄出

鶏頭の十四五本もありぬべし
蒲公英のかたさや海の日も一輪
百代の過客しんがり猫の子も
我を怒らしめこの月をまろかしめ
戦争が廊下の奥に立ってゐた
怒らぬから青野でしめる友の首
沼いちめん木片かわき拡がる慰藉
鉛筆の遺書ならば忘れ易からむ
陰に生る麦尊けれ青山河
家毎に地球の人や天の川

 

正岡子規
中村草田男
加藤楸邨*
竹下いづの
渡辺白泉
島津亮
堀葦男
林田紀音夫
佐藤鬼房 *
三橋敏雄
短評:百代の過客しんがりに猫の子も 加藤楸邨

 「百代の過客」は、芭蕉『おくのほそ道』の書き出しのことば、「月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり」からきている。芭蕉の研究者としても独自の見解をもつ秋邨のことだし、あまりにも有名なこのことばなら誰でも知っているとの安心感もあっての活用と受取る。読みも、原典通りに「はくたいのくわかく」と読みたい。そのほうが句に格調が具わり、「しんがりに猫の子も」といった戯(おど)けを含む言い方を、やわらかく品よく伝える。
 歳月は旅人(過客)であって、どんどん過ぎていく。その旅人の末尾には猫の子もいて、これも通り過ぎていった。人間に可愛いがられている猫も過客の仲間さ。微笑みを浮べて、作者は無常を見つめているのだ。

 

短評:ほとる麦尊けれ青山河 佐藤鬼房
 「陰に生る麦」は日本の神話を踏まえてのことば。『古事記』によると、食物をつかさどる女神の大宜津比売(おおげつひめ)は、素サ鳴尊(須佐之男命)に殺されたが、死体の陰からは麦が生え、五穀を生んだ。五穀の起源を伝える神話だが、いま初夏の山河に穂麦が波打ち、ひろがり、やがて麦秋をむかえる。青一色の山河は、麦の稔りと収穫のときをむかえる。作者は神話の世界を回想しつつ、それこそ「一粒の麦」をもいたわる心情のなかにいる。
 麦の生育を体(心身)で受けとめている句で、だから神話の女神の陰までが親しみを込めて蘇ってくるのである。言いかえれば、みちのくの土着者である作者は、大地に直に接し、そこから生れる「いのち」を直に感受してきた。その風土の厚みが、この句から如実に受取れるということでもある。