英作ハイク -入門-

お知らせ





英作ハイク - 入門編 -
九月になりました。夏の間にあちらこちらへ行かれて、お手元に沢山の海外俳句や英語ハイクがたまっている頃ではないかと思います。出来上がったハイクを推敲する参考になればと思い、以下、去る7月6日に行われました日本英語交流連盟の第三弾「英語でハイク」のワークショップで取り上げました要点を<ワンポイント・英作ハイク>にまとめておきました。このワークショップではあらかじめ投句をしていただいた句を材料に当日は、講評・合評をいたしました。アメリカハイク協会の元会長や現副会長であるニューヨークのブルース・ケネディーさん、シアトルのマイケル・D・ウェルチさんからもお知恵を拝借しました。
カナダのケベック在住のアビゲール・フリードマンさんの新しい本のご紹介です。
『The Haiku Apprentice (俳句見習い)』(米国、ストーンブリッジプレス社、2006年、www.stonebridge.com)と題されたペーパーバックの深紅の表紙には鳥居と筆のデザイン、副題には「日本で詩を書いていた思い出」とあります読みごたえのある236頁の本です。フリードマンさんは外交官として日本駐在中に沼津の句会に出かけ黒田杏子先生と出会います。日本語で俳句を詠み、句会や黒田先生との対話を通して俳句を学んでいく様子が丁寧に描かれています。英語で書かれた本ですが、内容は日本での俳句修行が中心。私たちが忘れてしまっているような新鮮な目線で俳句文化が書き留められています。本書が単なる異文化紹介のハウツー本に終わらなかったのは、俳句に触れる過程を通して自分発見というより大切な主題をも扱っているからでもあります。与えられた俳号にしっくりと馴染めないままに俳句修行にいそしむ姿に、著者がたどる俳句の道をいつの間にか読み手も一緒になって歩いていることに気づかされます。日本を去るに当たって黒田先生より「不二」というぴったりの俳号を頂くのですが、それはフリードマンさんが一人の俳人として誕生したことの象徴でもあります。お互いを十分に理解しあった師弟愛より生まれた俳号と私も感じ入りました。現在、フリードマンさんはケベックのアメリカ総領事としての公務の傍ら英語でもフランス語でも俳句を作るグループを作り活動をしています。彼女のブログがやはり英仏二ヶ国語ですのでご覧になってください。
The Stone Lantern: http://www.stonelantern.blogspot.com/
この石燈籠というネーミングにも訳がありまして、それはご本を読んでのお楽しみということに!
足指をくすぐる草の盆祭り        不二

grass tickling
my toes
o-bon festival                Fuji

不二さん、2005年HNA大会にて 不二さん、2005年HNA大会にて
7月末には、前回ご紹介しました種田山頭火をその句と井上博道さんの写真で紹介する『山頭火』(ピエブックス社)が出ました。書店にありましたら手にとってその重量を確かめてみてください。ずっしりです。共訳のポール・ワツキーさんとやることはやったという達成感を味わっています。9月25日から10月4日までサンフランシスコへ参ります。25日はポールとサンフランシスコジャイアンツの応援、野球観戦に行く予定です。今回の渡米は昨年に引き続きYuki Teikei Haiku Society(有季定型ハイク協会)のアシロマー研修に参加をして句会をすることが目的です。今年の徳富清ハイク大賞の選者は仙田洋子さんと岸本尚毅さんにお願いしてありますので研修の初日に発表されます結果と講評が楽しみです。
URL: http://www.youngleaves.org/index.htm
ご興味のある方、海外のハイク大会に参加なさってみませんか?

海外で開かれるハイク大会に興味のある方へ私が参加した経験のある二つの大会をご紹介しておきます。2007年の5月にカナダのオタワ市でハイクカナダ大会が開かれますのでホームページをご参照ください。
URL: http://www.haikucanada.org/

2007年8月には米国ノースカロライナ州でハイクノースアメリカ(HNA)大会があります。HNAは英語圏の俳句の大会では名実ともに一番充実しているのではないかと思います。詳しくは主催するノースカロライナ俳句協会のホームページのお知らせをご覧ください。
ノースカロライナ俳句協会: http://nc-haiku.org/meetings.htm#hna
HNA: http://haikunorthamerica.com/

海外のハイク大会へは一般参加の他に、今からでしたら講演者として登録をしてみるのも可能かと思います。俳句の国日本からの発信ということで是非どなたか行かれませんか?言葉の壁がありますので、ちょっと武者修行のような気分はするのですが何事も経験です。

英語ハイクの鑑賞
ワンポイント・俳句の英訳
ワンポイント・英作ハイク
英語ハイクの鑑賞
今回の鑑賞句はハイクカナダの2006年度アンソロジー『rain song (雨の歌)』(リロイ・ゴーマン編)からご紹介いたします。表題となりましたのがアン・ゴールドリングさんのこの句の一節です。
little stream  its rain song            Ann Goldring

小さな川の流れ その雨の歌         アン・ゴールドリング(カナダ)
小川の水音を「雨の歌」と表現しています。瀬音を雨の歌と感じて聴いている作者が見えてきますね。私は長閑な牧草地の端を流れる春の小川をイメージしましたが、ゴールドリングさんによれば村を流れる小川の橋のほとりで得た句ということです。皆様には何が見えてどんな歌が聞こえてきたでしょうか? 三行ではなくて一行、しかも二つのイメージの間には十分なスペースを取ってあり、小さな流れにまず目が留まります。ちょっとした間があって、立ち止まったのかもしれません、今度は音が聞こえてきたのです。一筋の小川が流れるように横に一行、こういう素敵な工夫も英語ハイクならではといえるでしょう。ゴールドリングさんは、トロントの「ハイク ディア パーク(鹿の園ハイク会)」の創立メンバーの一人でもあります。彼女がハイクカナダの副会長だったときに、国際交流基金の援助で朗読に行き大変お世話になったことがあります。俳人である他に童話作家としても活躍されています。
my letter to you―
I rejoin the perforations
of two stamps                 Graham High

あなたへの手紙―
切れたミシン目をまた合わせて
二枚の切手を貼る             グレアム・ハイ(英国)
もう一句、これは人事句ですね。一度切り離された二枚の切手のミシン目を再びぴったりと合わせて、あなたへ宛てた手紙に貼っている。rejoin (再接合する)という言葉を選んだことで、あなたとわたしの心までもが再び通うという暗示があって素敵なラブハイクだなと思いました。何気なくやっていることに意味を持たせてさらりと気持ちを表現しています、とても具体的でいいですね。
グラハムさんはロンドン在住の画家・彫刻家・作家。長く詩を書いてきた作者が1999年にハイクと出会い現在では英国ハイク協会の機関誌「ブライス スピリット」の三人の編集人のお一人です。またハイク専門の小さな出版社RAMも経営されています。これから目の離せない作家のお一人です。
ワンポイント・俳句の英訳

この夏の高島屋のお中元用の広告に使われた俳句の英訳を担当しました。一茶の句です。

 
涼風の曲がりくねつて来たりけり        小林一茶

suzukaze no magarikunette kitari keri
江戸の長屋住まいをイメージして一茶が作った句です。ごちゃごちゃしている長屋の路地をやっとのことで吹き抜けてきた涼風。この句の眼目は「曲がりくねって」だと思いましたのでちょっと拘ってみました。
the cool breeze
winding its way through
has arrived                     Issa
二行目の曲がりくねってというのが風の気持ちで表現してあります、それがやっと届いたという気持ちを表すのに、現在形の「来た」ではなくて「やっと辿りついて今吹いているよ」という意味合いの現在完了を使いました。

世界中の一茶ファンや俳句ファンが意見の交換をするためのウェブサイト「Poets on Issa」(一茶を語る俳人フォーラム) http://haikuguy.com/issa/poets.html を立ち上げた一茶研究者でありますニューオリンズのゼイヴィア大学のデイビッド・ラヌー教授による訳ですともっとすっきりとこうなっていました。
the cool breeze
meandering
arrives                        Issa  (英訳:David G. Lanoue)
ラヌーさんが始められた一茶のサイトにはわれらが木内徹先生も登場していますので是非覗いてみてください。
ワンポイント・英作ハイク
1) a と theの違いをよく理解し、句の中で使い分けをすること。より一般的な景を描き出すa と、より特定の景に絞り込むthe の違いはこんな風にでます。「英語でハイク」のワークショップで取り上げました句を例に引きます。
a fountain
spurts, leaving the spray
to a wind                    Yuki Tsuji
この句のなかでのa の使われ方ですと、「どれでもいいどこかの一つの噴水」、「どこかでいつか吹いているどれでもいい風」になってしまい句のイメージがぴりりと決まりません。the fountain, the windとすることによって「作者の目の前の特定の噴水」と「その時吹いてきた特定の風」という風に、句の中のイメージがより限定されるために鮮明になります。ついでに申せば、fountain spurts(噴水が噴出す)というのは当たり前のことなので、例えばthe fountain spurt(噴水のほとばしり)と名詞形にしてみる工夫とかいろいろ考えてみましょう。
the fountain spurt
its spray
left to the wind                Yuki Tsuji
「its」 という言葉は、ハイクにはあまりお勧めではないのですが、初心者マークということで使ってみました。ちなみに原句は、「噴水や風にゆだねる水しぶき  辻 由紀」とのことです。

2) 英語ハイクは、意識して現在形で書くこと。また小文字で初めて、終止符を打たないというスタイルが一般的ですので初心者にはお勧めします。

3) 沢山のことを読み込んでしまう場合があります。作品としてのハイクの中では、どういう状況かを説明するのではなくて伝えたいイメージを整理し、読者自身がそこから何かを発見できるようにすることも大切です。

A mantis is awaiting
a cicada quietly
under the reverse side
of green leaf                  Akiyoshi Nagashima
まず、形を整えて三行に収まるように工夫し、最初の大文字は小文字に直します。また内容的にみてみますと、ここでは、蟷螂と蝉に何が起きるのだろうかということが容易に想像できてしまうので若干新鮮さに欠けると言えるかもしれません。多くを語らずイメージだけを提示するという方法、しかも二者を並列させることによって生まれるリズムが緊張感を誘います。
the mantis waits
the cicada waits
two sides of a green leaf          Akiyoshi Nagashima
原句は「蟷螂が木の葉の裏で蝉を待ち  長嶋 昭美」とのことです。

4) それでもまだ整理できないほど沢山の内容を含んだ句は、無理に一句にまとめようとせずに、焦点を当てるイメージを違えて幾つかの新しい句を作ってみることをお勧めします。

5) 差別用語は使わないこと。ハイクは差別や非難、貶めたりするために作るものではありません。従ってあからさまに差別用語と社会で認められているような表現は避けましょう。

6) 描いているイメージを日本語のフィルターを通さずに直接英語でハイクにしてみる訓練も怠りなく! 頭の中に「英語でハイク」の回路を築いていく作業です。

以上、ご参考まで。国際俳句交流協会のハイクコンテストの締め切りが近づいています。9月29日までにふるってご応募くさだい!


筆者紹介
 
 
宮下惠美子
Miyashita Emiko
自称英語ハイクのフィールドワーカー

・国際俳句交流協会評議委員、「HI」編集委員
・俳人協会会員
・米国俳句協会会員
・カナダ俳句協会会員
・「天為」同人
・「游星」会員

英語関連の著書・共訳著書
・「Love Haiku: Masajo Suzuki's Lifetime of Love」
・「Einstein's Century: Akito Arima's Haiku」
・「Tsuru:Yoshino Yoshiko's Haiku」
・「The New Pond: An Anthology of English-language Haiku」
・「Haiku」
・「Wagashi」
・「Noh」
・「唐招提寺鑑真和上と盧舎那仏に捧げる 献華写真・献句」等
・「Santōka」
主なフィールドワーク地
アメリカ、カナダ、イギリス、東京・神奈川