英作ハイク -入門-

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英作ハイク - 入門編 -
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英作ハイク - 入門編 -

6月早々の梅雨入りです。5月末に高野山へ参りましたが、車窓から眺めた麦秋の麦畑と植田の広がる美しい日本の田園風景に改めて心打たれました。数年前に見たタイ国バンコック郊外に広がる刈入時の田園風景を思い出しました。今回は、新しく始まりました[リレー連載・海外の句会紹介]に寄せて、HIAの図書コーナーにありました海外詠の句集の中から二冊と、竹下流彩さんの『随想 港』をご紹介したいと思います。英語ハイクだけでなく、ご旅行や滞在中に海外で詠んだ日本語の俳句も、ふるって「HI」にご投句下さい。

「私の飛鳥」

私の飛鳥写真と俳句のコラボレーションによる横川端さんの白い句集です。2002年出版。

ページを繰るごとに海上を吹く風と光の変化、船で供される食べ物の豊かさ、また寄港先の様々な風物詩が出てきます。新鮮な旅行者の目で捉えた俳句と写真の作品が読者を現地へ誘い、読み終えて爽やかな海風と、若干の日焼けのほてりを腕などに覚えるような句集でした。

南国や濃き紫の蓮の花
航跡のただ一筋に雲の峰
大揺れの箸にかからぬ心太        横川端

後日、横川さんより『私の飛鳥 II』(2007年私家版)が届きました。
3ヶ月をかけた世界一周の船旅の記録、今回乗船されたのは「飛鳥 II」でした。

蒼き陽や水平線の朝霞
聖堂の騙絵仰ぐ聖五月      横川端

「DOORS」

DOORS2002年にオーストラリアのXAEAVEL Co.,Ltdより出版された野沢拓也さんの俳画集。表紙のピンクの装丁に、よく見ると金文字のタイトルの間から作者らしい人物の浮かび上がる趣向になっています。見開きの右に俳画、左にコンクリートハイク式に訳された英訳が付いています。タイ国バンコク滞在中の句が収められていますが、この俳画集では旅行者あるいは滞在者として外へ向けた目というよりは、たまたま遭遇している環境の中でひたすら内観しているという印象を受けました。

バンコクの夜明け始む稲光             

Bangkok lightning
Bangkok dawn

ドリアンの叩けば中の音を出す            野沢拓也



i beat
the durian
and from
deep [within]
the durian
beats
back

                      translation©π.o and Sandy Caldow

「随想 港」

随想 港当協会の設立にかかわり常務理事として平成5年まで事務局長を兼任された竹下流彩さんの『随想 港』(角川書店、ISBN978-4-04-651690-9、平成20年4月、非売品)には、70余りの外国勤務在勤という豊かな海外経験から得た随筆と俳句がぎっしりと詰まっていました。目次には「蠅一匹(クゥエート・イラク国境)」、「タベルナのいなりずし(北ギリシャ)」、「十倍美しい!(ロシア)」、「また行きたい国(ニュージーランド)」など。

蠅一匹車窓に砂漠越境す
風車小屋雪野のバーとなり燈る
春霰や出土ゼウスの力こぶ
夜も砂漠しろしコレラの薬のむ
芽吹く中マオリは神の舌を彫る            竹下流彩

第七回でご紹介しましたロバータ・ベアリーさんの句集「Unworn Necklace つけていない首飾り」が4月にthe Poetry Society of America's William Carlos Williams Award、米国詩協会のウィリアム・カーロス・ウィリアムズ賞の最終候補に残りました。結局受賞には至りませんでしたが、ハイクが英詩の土俵で相撲を取って勝ち進み千秋楽まで優勝圏内に留まったという快挙です。おめでとうございます!

日本英語交流連盟主宰の第5回[英語でハイク]のワークショップ(平成20年4月23日)では、「[球春]という語は英語で何になりますかね?」と、大リーグの解説で高名な池井優先生からのご質問がでました。何方かよい訳をご存知の方は教えてくださいませ。

1月に始まった「朝日ウイークリー」の英語俳句欄も半年を経ました。技術的な面の添削をさせてもらっていますが、そろそろ投句作品をそのまま掲載して鑑賞中心にできたらいいなと思っています。毎月10日ごろの締切りです。季節感のある一句を募集中:
aw1@asahi.com

俳人で「卯波」女将の故鈴木真砂女さんの句碑を東京・銀座一丁目並木通りに残せたらと思いまして、東京都中央区教育委員会事務局次長と図書文化財課長にお話を伺ってきましたところ、没後5年ほどでは真砂女さんの国民的な評価はまだ定まっておらず時間がかかるであろうとのことでした。ちなみに最近建ったのは西郷隆盛の碑だそうです。それならば、しばらくは無形の句碑をということで東京都中央区の京橋図書館の鑑賞室をお借りして[月例・銀座「卯波」女将・恋の俳人−真砂女さんを語り継ぐ朗読会]を平成20年6月6日より始めました。次回は8月8日、3時半−4時半、木戸銭なし!

俳句協会前会長のマーティン・ルーカス著「Stepping Stones」を英国駐在中(2000-2003年)に同協会で活躍されていました坂口明子さんにご紹介いただきました。

Stepping Stones : a way into haiku
坂口明子 記/訳

マーチン・ルーカス著、英国俳句協会出版
2007年 186頁 12ポンド
ISBN:978-0-9522397-9-6
Stepping Stones

背表紙に「広い広い川にかけられた366の踏み石...」とあるように、主に英国俳句協会会員の俳句に著者が解釈鑑賞を試みた書。うるう年対応1日1句366句を12ヵ月にちなむ12章に分けて配置、と言っても季節にそって12ヵ月に配されているわけではなく、各句のテーマが前後でつながり、連想ゲームのように流れていくように、また全体が有機的に働くように配置されている。
 序文にいわく、「・・・英国のハイクは日本の俳句と全く同じものではない。・・・我々の英国ハイクは、英国の詩の流れに、新たな価値ある創作の可能性を付け加えている。・・・」。この本を読んでいると、立派に独り立ちして歩んでいる頼もしい我が子を見る感を禁じえない。
 著者マーチン・ルーカスは1962年生まれ、若手ながら、ジェームス・カーカップ、デーヴィッド・コブに続く第三代英国俳句協会会長で、自身の俳誌「プレゼンス」の編集者でもあり、共著書も多い。2001年にこの本の基となった論文 "Haiku in Britain"で、カーディフ大学の博士号を取得したが、本書では論文前半の日本の俳諧史的なところは省略し、メインの英国ハイクの解釈鑑賞部分を大幅に改訂加筆したもののようだ。
 序文のまとめにいわく、「・・・結局、注釈の価値というのは、何を言っているかではなく、それぞれのハイクを読み続けるのを励ますところにある。これらのハイクとの出会いを楽しみ、繰り返しお読みいただきたい」。
 それでは一つ二つ楽しみましょう。

ハイクナンバー 2―29
stepping stones :   
in the middle of next stride
a wasp at rest               David Cobb

続く踏み石 次に踏もうとした石の真ん中に 休息中のスズメバチ

「・・・いいハイクの多くは驚きの産物だが、この句はあたかも不意打ちの産物だ・・・」

ハイクナンバー 3―18
Midnight
listening to the space
between two owls            Michael Bangerter

真夜中 二羽のフクロウの鳴声の 間を聞く

「・・・作者がその空間に書き込もうとしたものは、沈黙・空虚・闇に吸い込まれること、中心ではないがフクロウの音に縁取られて。」



この本でちょっと残念なことは、大変潔いことではあるが著者自身の句が一句も読めないことである。                          (坂口明子記)

 

英語ハイクの鑑賞
ワンポイント・俳句の英訳
ワンポイント・英作ハイク
英語ハイクの鑑賞

Nail Bezel氏トルコの元中東工科大学英文学教授・博士(現在は退官)のNail Bezel氏のトルコ語とその英訳による句集「haiku on the steppe 大草原の俳句」(ISBN9781434361103)www.haikuonthesteppe.comから3句鑑賞してみます。


トルコにおける俳句の本の出版は歴史上3冊目(別の詠み手による先の2冊は薄い本)で、Nail氏のこの本が本格的なトルコ語と英語による最初の句集となるそうです。1065句を納めた句集ですから読み応えがありました。原句はトルコ語で、ここでは英訳版を鑑賞しました。翻訳によって失われる、或いは付着する誤差は想像力で補いつつ・・・。翻訳されているのは780句ほど。言語の壁を越えられない句には英訳がありません。ベゼルさんは俳句がトルコのmaniという詩に似ていると言います、どんな詩なのでしょうね?始めにトルコ語の原句、次にベゼルさんの英訳です(番号は句集の中の句の番号)

haiku on the steppe 大草原の俳句165
çīrpīndī kuş
su üstünde- çīrpīndī
su da

165
bird flutters           
on water−water too    
in return

鳥が羽ばたく 水の上で―おなじく水も 羽ばたき返す

水飲場でしょうか、池でしょうか。鳥が羽ばたくと水も羽ばたき返すというのです。確かな俳人の眼を感じさせる一句です。穏やかな水面にはキラキラと輝く日輪も映っているのでしょう。

658
Şehirde yaz
bir pembe gül- tozlu
duvar dibinde

658
summer in town−
pink rose near a wall
all in dust

夏の街― 壁の近くのピンクの薔薇 埃まみれ

乾燥した夏日が続くと、いつしか舞い上げられた土ぼこりが薔薇の花弁に薄化粧をしてゆく。ピンクの薔薇もいつのまにか白茶けた土壁の色に。乾燥した空気を感じました。

1018
er sabah-
ne taze dünkü
acī söz

1018
early morn−
how fresh bitter word
of yesterday                 Nail Bezel

早朝― なんて鮮明なんだ、昨日の 苦い言葉


早朝、昨日受けた苦い言葉がより鮮明に思い出される。一夜明けても消えるどころかますますくっきりと鮮明に迫ってくる、というのです。この句集には自然詠のほかにも機知の光る句や人生を見つめた句が沢山ありました。

ワンポイント・俳句の英訳

俳句ではないのですが、ピエブックスから出版予定の「百人一首」の英訳を脱稿したところですので、短歌の話などしたく思います。英語ハイクと英語タンカ(短歌)には、3行で書くか5行で書くかの違いがあり、あるいは自然詠であるか心情的であるかなど内容的にも区別はあるようなのですが、多くの俳人が同時に短歌ポエットでもあるという実状がありまして日本ではしっかりと住み分けられている領域が多分に重なっているような印象がありました。つまり専門知識をそれほど必要とせずに英語短歌は書けるのだと思っていました。

百人一首には技巧的な歌も多く、内容を全部英訳してしまったら5行という器には決して収まりません。しかも説明的な訳をつけるのではなく、そのまま歌として通用するように訳さなくてはなりませんから、共訳のアメリカ短歌協会創立者の一人であるマイケル・D・ウェルチさんとうーむと唸りながら作業をしました。「みをつくし」を呼び出す「難波なる」をどうしても5行の訳には入れることが出来なかった一首をご紹介します。(英国式綴りを採用しました)

わびぬれば 今はたおなじ 難波なる みをつくしても 逢はむとぞ思ふ
                              元良親王
since our rumour circulated
I have been deeply depressed,
but it no longer matters to me-
I am determined to see you
even I have to die for it               Prince Motoyoshi

ワンポイント・英作ハイク

平成20年4月23日の日本英語交流連盟主催の「英語でハイク(俳句)第五弾」は、投句された句を合評しながら味わいつつ推敲していくというワークショップでした。その中の一句、松本彰二さんの句です。

under gorgeous cherry blossoms
a homeless old man clad in pink all over
sleeping with all smile                  Shōji Matsumoto

見事な桜の花の下で ホームレスの老人が全身ピンク色に覆われて
微笑ながら寝ている

でした。いくつかの形容詞が省けることと、内容が込み合っているので、別々に焦点を絞った二つの句になりそうだということで以下の二句を並べました。

under the cherry tree
a homeless man
blanketed by blossoms

桜の花の下で ホームレスの男が 花弁(の掛け布団)にくるまって

under the cherry tree
a homeless man
smiling in his sleep

桜の花の下で ホームレスの男が 寝ながら微笑んでいる

 

全体の景を報告するために一句を仕立てるのはなく、<作者の心に映った大切なイメージを言葉にする>、或いは<実景に遭遇して発せられた作者の心の深層からの言葉を拾う>ことが作句の作業です。結局、最初の「blanketed by blossoms」に軍配が上がり、みなさんの合意に基づく最終バージョンとなりました。


筆者紹介
 
 
宮下惠美子
Miyashita Emiko
自称英語ハイクのフィールドワーカー

・国際俳句交流協会評議委員、「HI」編集委員
・「朝日ウイークリー」 英語俳句選者
・俳人協会会員
・米国俳句協会会員
・カナダ俳句協会会員
・「天為」同人

英語関連の著書・共訳著書
・「Love Haiku: Masajo Suzuki's Lifetime of Love」
・「Einstein's Century: Akito Arima's Haiku」
・「Tsuru:Yoshino Yoshiko's Haiku」
・「The New Pond: An Anthology of English-language Haiku」
・「Haiku」
・「Wagashi」
・「Noh」
・「唐招提寺鑑真和上と盧舎那仏に捧げる 献華写真・献句」等
・「Santōka」
主なフィールドワーク地
アメリカ、カナダ、イギリス、インド、東京・神奈川