英作ハイク -入門-

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英作ハイク - 入門編 -
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英作ハイク - 入門編 -
日本の俳句を紹介する実作・句会までやるワークショップ風景

日本の俳句の紹介と英語での実作・句会のワークショップ風景


2010年5月21日‐23日、Haiku Canada Weekend(カナダハイク協会大会)がライラックの香りに包まれたカナダのモントリオールで開かれました。大会のテーマは「Haiku: Past Present Future (俳句:過去現在未来)」、マッギル大学の生涯学習センターの10階を会場に、参加者は日本やアメリカからの俳人を合わせて70名弱、発表者は29名でした。モントリオールはフレンチ・カナディアンが人口の8割を占めて、パリに次いで世界で二番目に大きいフランス語圏の都市だそうです。大会のプログラムもフランス語と英語の両方で印刷されています。中にはフランス語だけで行われる講演もあり、簡単な通訳(外国人の私たちの為の簡単な英語の要約が付くと言う程度)は付いたり付かなかったり。自己紹介を兼ねた大会アンソロジーからの朗読、フランス語のハイク映画の上映、フランス語の合評形式のハイクワークショップ、「Haiku Today(今日の俳句)」と題するジョージ・スウィードさんやジャニック・ベローさんら6人のパネリストによる討論会(残念ながらワークショップをしていて聴きに行けませんでした)などの他にも、句集の販売やサイレントオークション(寄付を募る為の持ち寄りオークション)、晩餐会(隣の皿の美味しそうなチキンを横目にラザニア風なベジタリアン食を食べてみました)、16冊の新刊句集やアンソロジーからの朗読会、昨年HIAの20周年記念大会のシンポジウムにいらしたマーシャル・リチュークさんが捌く深夜の連句会など、3日間の会期を1日ずつ過去・現在・未来とテーマ別に割り振った充実した大会でした。

左から、ライラック、宮下、大会実行委員のマルコ・フレッテセリさん、HIA 事務局の藤本はなさん

左から、ライラック、宮下、大会実行委員のマルコ・フレッテセリさん、HIA 事務局の藤本はなさん

英語の講演の中には、愛媛大学の中西淳先生の「カナダの小学校でハイクを教えて」という報告もありました。ハイクと短歌の区別は、5行か3行かという形式の違い、短歌の方がより感情的な内容を盛り込めるという違いと理解されているようで、比較的簡単に両者の境を越えてしまう人の多いカナダでは、ハイク大会といえども短歌のプログラムが入ってきます。2005年創刊のカナダの短歌誌「GUSTS」の編集長Kozue Uzawaさんによる短歌の講演がありました。

私はケベック作家協会共催の詩人らを対象とする初心者の為のハイク入門ワークショップ(3時間)と「添削」を紹介する講演(30分)を英語でさせて貰いました。27ヵ月の「朝日ウイークリー」の英語俳句欄選者としての経験から、西洋の投句者に対しては添削したい旨を伝えて必ず了解を得てからでないと活字に出来ないことを実感していました。そこで、日本では俳句と添削はセットで考えられており、有効な俳句上達の手段として実際に広く行われていることを伝えようと思ったのです。既にtensakuという語はインターネット上で紹介されており、目新しい事ではありませんでしたが、原句と添削の両方を提示することで具体的に違いが分かること、句の提供者は俳句コミュニティーに貢献していると捉えること、連句における捌きの役割など歴史的な考察も踏まえて作品は添削の度合いに拘わらず添削を受ける人の句として認められること、また添削を受け入れるかどうかは作者の自由であるなど、添削をする場合のルールを箇条書きにして示しました。結社制を取らず著作権や個人主義のはっきりしている西洋では直されたものを<自分の句>として発表することには抵抗があるという反応でしたが、<添削される側の貢献>という発想は新鮮だと言われました。この他に大会終了後の希望者によるハイク討論会の司会を指名されました。若者をどうやってハイクへ誘うかという話の流れの中では、日本の取り組みの一例として中西先生が関わっている「俳句甲子園」を紹介して頂きました。最後は皆で2回リハーサルをしてから、しゃんしゃんしゃんと三本締めをやり散会にしました。

大会3日目は「未来」がテーマとなりました。現在のカナダハイク協会会員の高齢化が進む中、若い世代がなかなか入会して来ない現状を踏まえて、「次世代俳人の育成」が切実な課題となっていました。小学生レベル、中学生・高校生ベルでの実際の取り組みを紹介する教育の現場からの発表がありました。小学生レベルでは、まず、手作りの折り紙式のノートを作らせ、実際に外に出て体験したことを通して植物や昆虫の名前をノートに書き出して言葉のリストを作っていくことから始めるという方法を取っているデヴァー・ダールさん(カナダハイク協会会長)のお話、高校生にはカードに自作のハイクを印刷してハイクの楽しさを教えているリロイ・ゴーマンさん(カナダハイク協会「ニュースレター」編集長)のお話がありました。また長年の高校教諭の経験を生かしてティーンエージャー用の俳句指導マアニュアル書を作成中のテリー・アン・カーターさんは、学校を回って生徒にはまず「自分を知ること」から句作に入っていくように指導していると報告。小学生には実際に自然に触れて体験させることから始めていくアプローチ、既に都会育ちで十代後半を迎えている子供達には彼らの最大関心事である<自分>を糸口にハイクと出会って貰うやり方を取っていることを面白く感じました。若い人がハイクに関心が薄い理由の一つは、学校教育の現場に浸透している「5−7−5シラブルのハイク」であるとのことでした。教材としてのハイクから、文芸としてのハイクへ、如何に若者たちにハイクの可能性・楽しさを理解して貰うかが鍵となりそうです。

大会終了後にたまたま立ち寄ってみました聖ジョーゼフ礼拝堂近くの書店にはジャニック・ベローさん達の短歌アンソロジー、芭蕉、蕪村、一茶らの俳句のフランス語訳の本が並んでいましたが、ハイクは依然としてカナダ詩壇のメインストリームの外にある存在だそうです。ケベック作家協会共催で行われた作家を対象とするワークショップは詩壇にハイク人口を増やす試みの一つでした。参加した詩人のスーザン・ギリスさんやメアリー・ディ・ミシェルさんは連句を楽しんでいるそうですが、ハイクは未だとのこと。詩人として名前の通った人々がハイクを書くことの意義は大きいようです。ワークショップの参加者に月例メール句会の呼び掛けをして、作家達の間にハイクの萌芽を確認できるところまでフォロー出来たら嬉しいなと考えているところです。メアリーさんが持って来て下さった庭のライラックの花束から、この会を「Bouquet of Lilacs」と名付けました。6月からスタートです。

 

大会を記念するカナダハイク協会の2010年アンソロジー『Shape Shifting (変形)』より3句ご紹介します。(直訳・宮下)


タイトル句となったコリン・バーデルさんの句から:

snowgusts
shape-shifting this
to that there               colin bardell(オタワ、カナダ)

吹雪  形が変わっていく これ  からあれへ あそこで


次は、フランス語と英語の橋渡しとパワーポイントなどの機材担当で活躍したマイク・モンテレイユさんの作品:

growing old –
my barber asks
to trim my eyebrows

je vieillis –
mon barbier demande
si il peut couper mes sourcils    Mike Montreuil

年を取ること  私の床屋が聞く  眉も整えましょうかって


3句目は、小学生に自作ノートでハイクを教えているデヴァー・ダールさんの作品:

first day back
already the classroom
smells like kids    Devar Dahl

戻ってきた最初の日 教室は既に 子供達の匂い

●デイヴ・ルッソさんが撮った大会の写真です:
http://lilaf.smugmug.com/Poetry/Haiku-Canada-2010-Montréal


私は残念ながらフランス語もドイツ語も分かりません。最新のアイルランドハイク協会のホームページ、「シャムロックShamrock (No14) 」にドイツのハイクや俳文などを英訳で紹介する特集が載っていました。
http://shamrockpinhaiku.webs.com/currentissue.htm
その中に、HIA20周年記念大会シンポジウムのド イツ代表シュテファン・ヴォルフシュッツさんの句も出ていましたので引用します。英語でしたら読める人は大勢いますので、今後ますます英語がハイク(文芸)の公用語となっていくのでしょうか。

young vegetables
reach out for the spring sky
already mature    Stefan Wolfschütz (transl. by Anatoly Kudryavitsky)

若い野菜が 春の空へ伸びる すでに食べ頃  (直訳・宮下)

「ハイク クロニクル」の第12話、The Four Pillars Part I, The Narrow Threadではアニタ・ヴァージルさんの芭蕉の作品の内面についての考察を聴くことができます。
The Haiku Chronicles: http://www.haikuchronicles.com


 
筆者紹介
 
 
宮下惠美子
Miyashita Emiko
自称英語ハイクのフィールドワーカー

・国際俳句交流協会評議委員、「HI」編集委員
・俳人協会幹事
・日本英語交流連盟 特別参与
・「朝日ウイークリー」英語俳句欄選者(2008年1月〜2010年3月)
・国際日本文化研究センター
 「日本における翻訳の文化史」共同研究員(2009年6月〜)
・米国俳句協会会員
・カナダ俳句協会会員
・「天為」同人・「晨」同人

英語関連の著書・共訳著書
・「Love Haiku: Masajo Suzuki's Lifetime of Love」
・「Einstein's Century: Akito Arima's Haiku」
・「Tsuru:Yoshino Yoshiko's Haiku」
・「The New Pond: An Anthology of English-language Haiku」
・「Haiku」
・「Wagashi」
・「Noh」
・「唐招提寺鑑真和上と盧舎那仏に捧げる 献華写真・献句」等
・「Santōka」
・「Hyakunin Isshu」
主なフィールドワーク地
アメリカ、カナダ、イギリス、インド、東京・神奈川