第22回 HIA俳句大会 入選作品

俳句部門

国際俳句交流協会賞

洞窟に黒きマリアや秋灯札幌市熊谷佳久子

俳人協会賞

都会にも獣道あり昭和の日夷隅郡越川悟

現代俳句協会賞

炎熱や砂丘に太き油送管葛飾区白塚告天子

日本伝統俳句協会賞

夫と犬ごろりと昼寝してをりぬ習志野市渡辺雅子

日本経済新聞社賞

考えるためふらここに揺れてをり杉並区草野准子

ジャパンタイムズ社賞

拳かたくポケットにある八月名古屋市朴美代子

有馬朗人選

特選
洞窟に黒きマリアや秋灯札幌市熊谷佳久子
薪煖炉手拍子弾むバラライカ葛飾区白塚告天子
入選
フィヨルドに響く聖夜のミサの鐘秋田市和田仁
パリ六区蝶を織り込むドレス欲し杉並区田中あき子
残雪のキリマンジャロに眠る豹神戸市池田雅かず
ハングルの激音ことに息白し茅ケ崎市塚本治彦
短夜や一字に古き来迎図夷隅郡浅野航秀
オリーブの花咲く丘のアザーンかな宜野湾市筒井慶夏
捨てられしベニスの仮面夏の影港区青山ゆり
エッシャーの階段のぼり星月夜横浜市髙橋紀美子
龍太なき谷の夕空鉄風鈴三原市矢野真緋子

稲畑汀子選

特選
夫と犬ごろりと昼寝してをりぬ習志野市渡辺雅子
母とゆく終の旅かも風の盆夷隅郡田中和男
入選
山荘へ霧の匂ひし古道かな逗子市佐藤信子
沖に手を合わす人あり雁渡る夷隅郡越川悟
潮の香をかすかに残し秋簾夷隅郡越川悟
雪深し民話のような里眠る夷隅郡越川悟
空蟬のいのち抜けたる軽さかな犬山市長瀬きよ子
草いきれ今しか出来ぬ事をやるさいたま市原田静子
嫁ぐ日を真近の孫と門火焚く弘前市岩田秀夫
何と言ふ花かと問はる藤袴名古屋市山川和代
八月や昔話は色あせず多摩市秋山マリア
冷房の要らぬ朝を迎へけり久留米市谷川章子

大高霧海選

特選
異界の火盗みし末の原爆忌東久留米市井坂宏
逆潮に逆巻く卯波大鳴門江東区千葉日出代
入選
角折れし般若が睨む冬座敷夷隅郡越川悟
目癈女に三味は運命と冬の瞽女夷隅郡越川悟
朝霧に浮かぶビル群未来都市夷隅郡越川悟
おほかみも鹿火屋も消えて山頽る猿島郡羽鳥つねを
太陽を溶かしぎらぎら大瀑布渋谷区佐藤みちゑ
竿燈の妙技囃子がうまく乗せ千葉市藤野武彦
特攻の遺書水よりも澄む黙祷す八千代市若林佐嗣
サングラスとればどこにもゐる男匝瑳市田中修
骨箱は永遠にからっぽ敗戦忌那須郡畠山雍
八月や煉獄晴れぬ黒い雨豊島区菊池熱海

大輪靖宏選

特選
考へるためふらここに揺れてをり杉並区草野准子
冷やしたる牛と夕日の中帰る大阪市西上禎子
入選
新茶汲む母ありし日の空がある木更津市中沢一紅
落暉きて銀から金へ芒原夷隅郡越川悟
いずこから電子音して初夏の寺夷隅郡越川悟
雪深し民話のような里眠る夷隅郡越川悟
空蟬のいのち抜けたる軽さかな犬山市長瀬きよ子
石楠花や女人高野に紅深き深谷市中村和江
曼珠沙華くれなゐ色の雨が降る神戸市池田雅かず
病院の人影忙し夜長の灯三田市木下直子
転がりて銀色濃くす芋の露三重郡石井洋子
半跏思惟像の右手にある秋思豊中市北橋晁子

加藤耕子選

特選
万緑の中や秞子氏亡き庵犬山市長瀬きよ子
夏野菜ざっくり切って自粛中江戸川区石綿久子
入選
月光や国境線の天使像茅ケ崎市結菜やよひ
天窓の温し光りを掌で掬ふ夷隅郡越川悟
若き日は荒野いま吾枯野ゆく夷隅郡越川悟
玉砕せし叔父の黴の書「蟹工船」夷隅郡越川悟
海に向く大仏の顔あたたかし川崎市飯川三無
遺骨無き七十五年終戦日神戸市池田雅かず
シーボルトの国に根を張り濃紫陽花名古屋市清水京子
仕事場は六尺の床獺祭忌名古屋市清水京子
白地着て小さんが通る池の端川崎市山本浪子

鷹羽狩行選

特選
都会にも獣道あり昭和の日夷隅郡越川悟
若き日のアロハを着せて案山子かな匝瑳市田中修
入選
入口に隣りて出口菊花展杉並区草野准子
若き日は荒野いま吾枯野ゆく夷隅郡越川悟
八月の六日九日蠅蚊を打たず夷隅郡越川悟
火のごとき空のありけり広島忌久喜市梅田ひろし
クリスマスイブ中庭に橇の跡練馬区黒﨑舞句
万緑や天地ぐるりと逆上がり鴨川市小滝眞珠雄
盆灯篭高きに掲げ父を待つ鴨川市小滝眞珠雄
この星につかのま生きて大根蒔く小牧市鈴木滋三
秋の蝶一語こぼして飛びゆけり廿日市市日比野さき枝
逢ふことの叶わぬ日々や合歓の花鎌倉市川口弘人
水売の声遠ざかる夏木立大阪市西上禎子

中村和弘選

特選
炎熱や砂丘に太き油送管葛飾区白塚告天子
泥壁に家畜の匂ひ草の花三田市吉村玲子
入選
月光や国境線の天使像茅ケ崎市結菜やよひ
フィヨルドに響く聖夜のミサの鐘秋田市和田仁
ピレネーの谷行く炎暑の巡礼者秋田市和田仁
クリスマスイブ中庭に橇の跡練馬区黒﨑舞句
シーボルトの国に根を張り濃紫陽花名古屋市清水京子
クラクション霧より霧へ集乳車相模原市宮崎登美子
オリーブの花咲く丘のアザーンかな宜野湾市筒井慶夏
牧原の冬あをあをとヨークシャー横浜市越智淳子
キルト刺す女が二人島夕焼京田辺市佐々宙
ゲルを出づ一歩に露のとびつきぬ豊中市小畑晴子

能村研三選

特選
拳かたくポケットにある八月名古屋市朴美代子
発車ベル銀漢行の小海線八千代市若林佐嗣
入選
トレースの白線涼し設計図習志野市渡辺雅子
山巓に月を舫ひてドナウ川秋田市和田仁
光陰のひと絵切り取る晩夏光夷隅郡越川悟
空蟬のいのち抜けたる軽さかな犬山市長瀬きよ子
考へるためふらここに揺れてをり杉並区草野准子
天翔は天使の証つばくらめ秋田市和田仁
豊穣を風が促し稲の花鴨川市小滝眞珠雄
シャガールに青の幻想星まつり世田谷区杉崎邦子
気象士は魔女か台風杖で押す多摩市秋山マリア
言霊のしづもる高野霧襖江東区千葉日出代

宮坂静生選

特選
パンパス芒穂先は天へ光溜め西宮市森田みさ
振り向けば後かたもなき花野かな那須郡畠山雍
入選
フィヨルドに響く聖夜のミサの鐘秋田市和田仁
黎明のロックンロール冬のスラム夷隅郡越川悟
若き日は荒野いま吾枯野ゆく夷隅郡越川悟
チェンマイの深き木立やハンモック渋谷区佐藤みちゑ
焼くために弟背負ふはだしの子夷隅郡越川悟
野火と野火ぶつかり合ひて天を突き茅ケ崎市塚本治彦
オリーブの花咲く丘のアザーンかな宜野湾市筒井慶夏
秋風にアボリジーニの笛の音渋谷区北沢一宏
フェルメールのターバンの青四月来京田辺市佐々宙

ハイク部門

特選 木村聡雄選
Prize Winners, selected by Toshio Kimura

our window-box
a honeybee meanders
among my desires
Cynthia Rowe
(Australia)
窓の鉢
わが欲望を
蜜蜂飛ぶ
シンシア・ロウ
(オーストラリア)

窓際の植木鉢のあたりを蜜蜂が蜜を求めて飛びまわる。蜂は著者の欲望の中を行ったり来たりするようだという。咲き誇る花には自分の欲望が映し出されているのだろうか。生き物の本能が目覚める春の日。

abandoned garden
a rusty bird cage
with the door open
marinabita(Marina Bellini)
(Romania)
廃園に
扉の開いた
鳥かご錆びる
マリナビータ(マリナ・ベリーニ)
(ルーマニア)

花は枯れ果て、草木も伸び放題の庭、身近にもあるかもしれない。忘れられた鳥かごは錆びつき扉も開いたまま。思いは在りし日へ。花は咲き、鳥は歌っている。開いた扉は、その鳥が今は自由に飛びまわっているかもしれないと想像させる。

入選 木村聡雄選
Honorable Mentions, selected by Toshio Kimura

autumn loneliness
waiting for the cows
to come home
Susan Burch
(U.S.A.)
秋あわれ
牛の帰りを
待つばかり
スーザン・バーチ
(アメリカ)
paper lantern
passing sea-grass
gone, like that
Ana Prundaru
(Switzerland)
灯籠流し
水草を過ぎ
消えゆく、ような
アナ・プルンダル
(スイス)
long journey
I wave to the moon
I left behindd
Praniti Gulyani
(India)
長旅へ
後に残した
月にあいさつ
プラニチ・グリャーニ
(インド)
summer winds
my guitar gathers
the softest dust
Himanshu Vyas
(India)
夏の風
ギターに積もる
塵柔らか
ヒマンシュ・ヴィアス
(インド)

特選 ディヴィッド・バーレイ選
Prize Winners, selected by David Burleigh

Biblical rainfall
the pigeon bread has turned
to dough again
Lyudmila Hristova
(Bulgaria)
ノアの洪水の雨
鳩のパンふたたび
練り粉へと
リュドゥミラ・フリストヴァ
(ブルガリア)

I liked this verse when I first glanced through, and still liked it on second reading: The pouring rain has reduced the bread to mush, while the drops knead it like a baker’s hands. There is an amusing haikai quality to this, fresh and well observed.

dropping
its last leaf
wind enters the bathhouse
Jonathan Humphrey
(U.S.A.)
最後の葉
落として
風が脱衣所へ
ジョナサン・ハンフリー
(アメリカ)

This verse too has a bemused quality, in the tradition of haikai , and is well timed, so the meaningchanges in the middle, opening up different possible interpretations as we follow the naked wind indoors, the leaf discarded.

入選 ディヴィッド・バーレイ選
Honorable Mentions, selected by David Burleigh

full moon
my blank
look
Pere Risteski
(North Macedonia)
満月
無表情な私の
ペレ・リステスキ
(北マケドニア)
cherry petals
the mask can’t hide
her delight
Edward Tara
(Romania)
桜の花びら
マスクが隠せない
彼女のうれしさ
エドワルド・タラ
(ルーマニア)
meteor shower
the black-eyed susans
are watching too
Earl R. Keener
(U.S.A.)
流星雨
マツカサギクも
見つめている
アール・R. キーナー
(アメリカ)
early dawn
he fills the door frame
with his laughter
Xenia Tran
(U.K.)
夜明け
ドア枠いっぱいに
彼の笑い声
ゼニア・トラン
(イギリス)