海外の句会・俳句紹介


ミュンヘン句会

2012年12月

バイエルン独日協会のドイツ語句会は1998年1月に協会理事の孝子 フォン・ツェルセンさんによって創設されました。当時ミュンヘンではギュンター・クリンゲという俳人が活躍し、1993年と1997年に日独俳句交流がミュンヘンで開かれました。その両方の旅で山田弘子先生が来独され、また1994年秋にはミュンヘン大学で講演をなさっており、そんなご縁で孝子さんが弘子先生のもとで俳句を勉強されるようになりました。このようなことからミュンヘン句会はホトトギスの流れを汲む伝統俳句を旨としております。

1995年1月に結社「円虹」を立ち上げられた弘子主宰はご多忙の中でミュンヘン句会の句に何年も句評を毎月寄せてくださり、2005年に再びミュンヘンにいらしてセミナーをしてくださるなど私共をご教示くださいましたが、2010年2月に急逝され、現在は跡を継がれたご息女の山田佳乃主宰にご指導をいただいております。

私はミュンヘン句会の創設直後から会に属し、2007年に孝子さんが身を引かれた後キングラーさんと句会のお世話をしています。現在欧米語で書かれている俳句は作者によってテーマもスタイルもてんでばらばらという印象が強いのですが、ミュンヘン句会と2004年にできたアウグスブルク句会では、俳句の命は定型であり、また季題の重さであるということを徹底しています。韻文性、リズム、口誦性は詩の一形式である俳句にとっては生命であり、フリースタイルでそれを達成するのは非常に難しいと思われます。言語によっては5-7-5のシラブル数がそのまま相応しいとは限らないけれども、ある定型をもって作句することは大切だと皆も納得しています。

2012年6月 北イタリア、南チロル地方にミュンヘン、アウグスブルク句会の合同吟行。

ドイツ語での作句で私たちが目指していることは、日本からの借り物でなく、ドイツ語圏の風土の中で自分たちの感性に合った表現を磨いてゆくことです。日本の歳時記を基礎としながらも、この土地特有の祭事、行事、風俗、自然現象などを句材としています。例えば「凧揚げ」は日本では伝統的には春季、子供の遊びとしては新年に当たりますが、ドイツでは風の具合や、刈り取り後の畑を遊び場として使う習慣のため秋の季題となります。「雪月花」は日本の詩歌では欠かせない題ですが、一年中空気が乾いているドイツとその周辺では「月」を秋季とすることは無理です。同様に、白鳥、雁、野鴨などは湖や公園の池に常住して繁殖していますので季感がありません。「花火」といえばこちらでは年の変わり目に各家庭で打ち上げる花火を指します。

また、句会メンバーは幼少の頃からたくさんのドイツ文学、詩歌を吸収して成長してきたわけで、作句の時に特に意識はしていなくてもそういうものが常に根底に働いていることは否定できないと言っています。

私達日本人とは縁が薄いものとしては宗教的文化基盤があります。バイエルン州ではカトリックの教会暦、行事祭事が日常にも浸透していますが、句にはプロテスタント、ユダヤ教、イスラム教なども句材として登場して大変多彩です。

今回ご紹介させていただくのは主に先月(2012年11月)の句会の句ですが、11月というのはキリスト教では死者を思い、死と対峙する月で、提出される句にもそのような背景を持ったものが多くなります。

文責・村戸裕子

2012年10月にHIAの宮下惠美子氏とドイツ俳句協会のヴォルフシュッツ氏がミュンヘン句会を来訪。

ミュンヘン2012年11月句会より(例外あり)

Schicht um Schicht verpackt
Schneewatte den Laubgoldbaum -
Ende Sommerzeit

Mechthild Hartmann

幾層にも雪綿が
金色の葉の木を包む-
夏時間の終り

メヒトヒルト・ハルトマン

Im Laternen-Licht
letzte Rosen, blass schimmernd
umhüllt von Nebel

Werner Broell

街灯の光の中に
最後の薔薇が、青白く微光を放ち
霧に包まれて

ヴェルナー・ブレル

Novemberkälte.
In meine vier Wände ist
sie eingebrochen.

Günther Peer

11月の寒さ。
私の家の中に
その寒さが侵入する。

ギュンター・ペール
(北イタリア在住)

Graue Herbstwolken -
einer Silbermöwe Schrei
bleibt ohne Antwort.

Monika Hermann

灰色の秋雲-
一羽の背黒鷗の叫びに
答えは無いまま。

モニカ・ヘルマン

Nach langem Weg zur
Ruhe gekommen – Herbstlaub
in der Hofecke.

Regina Seelig

長い道程の後
静止する-秋の葉が
中庭の隅に。

レギーナ・ゼーリッヒ

Unter fallenden
Weidenblättern eine Rast -
es regnet leise.

Yuko Murato

降り落ちる
柳の葉の下で一休み-
静かに雨が降る。

村戸裕子

Rotflammender Strauch
streckt seine Äste
hoch in den Himmel

Denise Gerstmayer

赤く燃え上がる灌木が
枝々を差し伸べる
天に向かって高く

デニーズ・ゲルストマイヤー

Die Winterkrähe
stiehlt mir auch noch die Wörter
die du nicht sagst, grrr.

Renate Barkmeyer

冬鴉が
その言葉さえも私から奪う
あなたが言わない言葉さえ、グルルル。

レナーテ・バルクマイヤー

Aus neuen Rissen
dringt nur bittere Kälte -
Haus meiner Kindheit.

Christine Matha

新しい亀裂から
ただひどい寒さのみが入り込む-
私の子供の頃の家。

クリスティーネ・マータ
(北イタリア在住)

2012年10月句

“… sitz ich beim Schwager
vorn” lauthals singend in der
letzten Herbstsonne

Jochen Kingler

「…前方、郵便馬車の御者の
横に座って」*を声高に歌いながら
最後の秋日の中で

*ドイツのポピュラーな民謡。

ヨッヘン・キングラー

Abschied von Nina –
Der Farbenrausch des Herbstes
betäubt meinen Schmerz

Gisela Holle

ニーナとの別れ-
秋の色彩の陶酔が
私の苦痛を和らげる

ギゼラ・ホレ

Selbst dem Krähenschrei
entlockt der Nebel eine
seltsame Stille

Rainer Mehringer

鴉の叫びからさえも
霧は引き出す
風変わりな静けさを

ライナー・メーリンガー

2012年9月句

Frühherbstlich säumen
Bäume das Oktoberfest
und seinen Übermut.

Erich Wasem

初秋らしく木々が
オクトーバーフェスト*と
その大はしゃぎを縁取っている。

エーリッヒ・ヴァーゼム

* 9月下旬から2週間開かれるミュンヘンのビール祭。