haiku・つれづれ

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haiku・つれづれ - 第21回

宮下惠美子


2022年の冬到来。
夏以降のつれづれを纏めて綴りました。

【海外の同人制度】

2022年2月に元「ゆく春」同人でYTHS会員の村上博幸さんと、「晨」同人、元「天為」同人の私が米国のYuki Teikei Haiku Societyに同人として迎えられました。海外の俳句組織で同人制度を持つところを他に知りませんので、YTHSのユニークな同人制度を簡単にご紹介いたします。

YTHSの初代同人は「狩」同人だった創立者の一人徳富喜代子さんが、鷹羽狩行「狩」主宰に選考をお願いして決めたと聞いています。まず、1984年3月の機関紙「月報俳句ジャーナル」に同人制度導入の指標が示され、「同人は志を同じくする人」と紹介され、組織への貢献、後進の指導、秀句を詠むことと俳句文学に対する理解が求められました。同年9月の同紙上に応募者10名の名前が載り、同人候補者が各々提出した50句に徳富さんが和訳を付けて鷹羽主宰へ送付、選考の結果、パトリシア・J・マクミラーさん、ジェリー・ボールさん、そしてリリアン・ギスキンさんの3人の同人が1985年に誕生しています。

その後、リリアンさんが会を去り、徳富夫妻やジェリー・ボールさんの逝去で、同人がパトリシアさんだけとなったYTHSに新しい同人をという声が起こりました。2022年2月にパトリシアさんより「狩」の鷹羽主宰に連絡が取れないか?とメールが来たのです。「狩」は既に終刊したことを告げ、1975年以来の歴史あるYTHSなのだから独自の同人選考システムを作るべきなのではと提案してみした。「ホトトギス」や「天為」では会員の約半数が同人であり、会の運営をサポート(同人会費は別払)している実態も伝えました。私の体験から、同人には、名誉同人(会に貢献された方や、長くやってこられた方へ)や働け同人(活動をするに当たって同人の肩書が役に立つ人へ)、なども有り必ずしも俳句の良し悪しだけで同人が決まるのでは無いことも付け加えました。また、他の結社で既に同人であれば、新しい結社に同人として迎えられる場合もあることも。同人の定義についても聞かれ久しぶりに『俳文学大辞典』も紐解きました。この流れで、「月報」に時折寄稿されていた村上さんと、2014年より「月報・同人コーナー」で会員の投句に短評を書かせて貰っていた私はYTHSに同人として迎えられたのです。

YTHSに同人選考委員会が立ち上げられ、和訳を介さずに選考するシステムが採用されました。会員に向けての同人募集の告知は2022年7月に行われました。同人になるために必要な条件が示され、これまでの貢献度、代表作50句、それにYTHSに対してどれだけ今後貢献する意思があるかなどを8月末迄に書面提出すことが記されています。「同人」と「徳富喜代子同人」の二段階に設定された同人システムでは、まず会員が研鑽の目標にできるゴールを「同人」と定め、さらに5年を経た後に「徳富喜代子同人」に昇格するチャンスが与えられるのです。7名の会員が応募し、村上さんや私を含む同人選考委員会の各人による書類審査が行われました。9月13 日に選考委員会のZoom会議が行われ各人が意見を述べ合いました。新同人の発表は10月8日(日本時間)、2022年度徳富賞発表の前の30分を使い、「徳富喜代子同人」であるパトリシアさんが選考委員会の結果を述べ、ニール・ウィットマンさん、アリソン・ウールパートさん、J・ツインマーマンさん、リンダ・パパニコラウさん、ミミ・アーヘンさん、ジョニー・ジョンソン・ハフェルニクさん、ロジャー・アベさんの7名の新同人が誕生しました。新同人は、これまでに会長職や月報編集長をされてきた方々で、それぞれに個性が光る、成るべくして成った、力のある俳人ばかり。創立者の意志を忘れずに、上手に日本の同人制度から学び発展させつつ俳句に精進していくYTHSの姿勢を清々しく思いました。余談ですが、YTHSでは同人会費制は不採用となっています。

【2022年度YTHS徳富賞選考】

2022年YTHS徳富賞は3年連続で選者を頼まれたので、今年は趣向を変えて金子兜太先生のお弟子さんの小野裕三さんをお誘いして、2人で選を致しました。選者であることは発表まで秘密です。8月 初めに応募作品約400句が届きました。徳富賞は英語の5−7−5シラブルを守り、兼題の中から選んで応募するコンテストです。シラブルを数えることに自信のない私は、選者をする時の条件として予め規定を満たしている作品だけ送って貰うことにしています。2022年の兼題は新年から「first visitor」、春から「mint, swing, hummingbird」、夏から「gardenia, fan, lotus」、秋から「squirrel hides nuts, morning glory, red leaves」、そして冬から「blanket, winter seclusion, old diary」でした。YTHSのキャサベラ・ウィルソンさんがコンテストの運営に当たりました。

小野さんと私は、別々に選をして、お互いの選んだ句を持ち寄ってZoom会議を致しました。結果として1位の句は2人とも文句なく1位。

origami fans
National Geographic's
recycled pages
Alison Woolpert
折紙の扇
ナショナル・ジオグラフィック誌の
再利用ページ
アリソン・ウーパート

その他の句に関しては、小野さんが押した句を小野さんが解説し、私がいいと思う句は私が鑑賞をするという形で1位から3位までを選び、3位は2人とも譲らず、結局2句を取りました。佳作の10句についても、下選のうちのどの句を削るかを慎重に話し合い、伝統俳句と現代俳句の鬩ぎ合いの様相を呈した選考会となりましたが、どの句も鮮明な印象の残る句で、楽しく選考が出来ました。2022年10月8日朝(日本時間)のZoomでの発表では、全ての入選句の短評を2人で読み上げ、大変喜ばれました。現代俳句とあまり接点のなかったYTHSの皆さんは、評論家でもある小野さんの鮮烈な短評に感銘を受けていました。私の印象では、小野さんの鑑賞は、身の回りを測る物差しでは測れないものを測って見せる力が魅力です。その奥にあるもの、一つ上の次元にあるものへと広がる自在さも若さだと思いました!

コンテストの結果はこちら:https://yths.org/wp-content/uploads/2022/10/2022_Tokutomi_Brochure.pdf

【カナダのフォト俳句イベントに参加】

カナダのオンタリオ湖に面したミサンガ市に住む詩人・俳人のアナ・イン(Anna Yin)さんから、2022年7月のアジア月間中に彼女が企画するミサンガ市を発見する俳句イベントに参加するよう頼まれ、HIA評議員の小野裕三さんと会員の内村恭子さんにも声を掛けて、英語俳句を2〜3句ずつ提供しました。地元の写真家が撮った写真の中から気に入った作品を選び、句を作るという趣向です。私達の句はフォト俳句ゲームにも使われて電子書籍に収められました。
https://www.annapoetry.com/wp-content/uploads/2022/09/HereAndNowDiscoverMississaugaAndMoreEBook2022.pdf

【和訳プロジェクト『夜のジャスミン』】

クロアチアの俳人ゴラン・カタリサさんの句集『夜のジャスミン』は、クロアチア語を入れて7カ国語(翻訳)で読む句集です。翻訳は全て有志、ボランティアで行われ、ゴランさんの友情に答える形で完成しました。家族や戦争への思いなど、繊細なタッチで綴られています。和訳には角谷昌子さん、蛭田秀法さん、吉村侑代さんなどが参加されています。私も初めは40句なら出来ますよというお約束だったのに、他の翻訳もチェックしてほしいと頼まれ、結局それぞれが出してきた和訳の全てを統括して最後まで見ることになりました。差し替える句や修正する句等、最後の最後まで磨きに磨かれた句集です。ゴランさんはこちらから出す和訳を自動翻訳にかけて、また質問を投げかけて来ます。印象と事象とトーンを正確に日本語に訳そうとする作業が続きました。

私が『The New Pond 新しい池:英語圏の俳人たち』を出した2003年頃は、5−7−5の17音でなければ俳句では無いという風潮がまだ強く、17音訳の他に英語の直訳をつけて出版しました。でも今回は迷わず3行に訳しています。和訳を定形にしなければ海外の句を俳句として認めないないとする姿勢は薄れ、それよりも、原句が見せる景をさらりと3行にして俳句として楽しむようになってきました。日本の俳句人口を遥かに上回る海外の俳句人口が活躍していて、それぞれの風土でそれぞれの原語で俳句を作っているのですから、俳句は日本でしかも日本語でしか作れないという思い込みは時代遅れになっています。

10月30日に開かれた母校の同志社大学英文学会でも『夜のジャスミン』が翻訳句集として紹介されました。日本でも多くの人に読んで頂けたらと思います。本は直接ゴランさん(Goran Gatalica)へお申し込みください(※)。
評論家の小野裕三さんが書評を「つれづれ 第20回」に書いて下さっています。
(※本の注文専用のメールアドレスを現在準備しています。追って掲載します)

【第一回日本語教育ネットワーク俳句コンテスト】

2022年11月14日午前8時(日本時間)より第一回日本語教育ネットワーク俳句コンテストの表彰式がZoomで行われました。JAL財団を通して選者を頼まれて、中南米カリブ地区の日本語を学習しているみなさんが日本語で作った俳句を読ませて頂きました。せっかくの機会なのでと、参加者39名による句会を立ち上げるべく準備が進められています。


宮下惠美子
筆者近影