世界の「俳句・ハイク」事情

監修 木内 徹
kiuchi@haiku-hia.com


アメリカ合衆国

執筆 木内徹

2002.08.01

アメリカ合衆国における俳句の受容

アメリカの詩人エズラ・パウンド(Ezra Pound)が荒木田守武の句「落花枝に帰るとみれば胡蝶かな」を英訳し、それがアメリカのイマジスト派の詩人たちに大きな影響を与えたことはよく知られているが、俳句は特に第二次世界大戦後、ハロルド・ヘンダースン(Harold Henderson)、R・H・ブライス(R.H. Blyth)、アラン・ワッツ(Alan Watts)によって、禅の思想とともに本格的にアメリカに紹介された。そしてビート時代の詩人たち、アレン・ギンズバーグ(Allen Ginsberg)、ジャック・ケルアック(Jack Kerouac)、ゲーリー・スナイダー(Gary Snyder)などが、禅の影響のもとにハイクを作った。 その後、1962年に「アメリカン・ハイク」(American Haiku)がアメリカで最初のハイク専門雑誌としてジェームズ・ブル(James Bull)氏によって出版された。この雑誌はわずか5年ほどで廃刊になったが、以下に述べるとおり、ハイク雑誌、ハイク協会が次々に創立され、ハイクはアメリカ一般大衆に広まって、現代に至る。

アメリカ・ハイク協会(Haiku Society of America)

アメリカ合衆国では、アメリカ・ハイク協会(Haiku Society of America)の存在が大きい。本協会は、1968年に「英語ハイクの創作と鑑賞を促進する目的」で創立され、現在アメリカ合衆国内外に884人の会員を有するアメリカ合衆国最大・最古のハイク協会である。  活動としては、定期的に講演会、句会、作品発表会、コンテストなどを行い、機関誌「蛙池」(Frogpond)を年に3度刊行して英語によるハイク、センリュウ、レンク、レンガ、ハイブン、エッセイ、書評を掲載している。季刊で会報も発行しており、全国大会や地方の大会、イベントなどの情報を掲している。 年に4回、定期大会を開催しており、2002年の第2回は、6月15日にニューヨークで行われた。ちなみに、この大会の内容は、セントラルパークのコンサーヴァトリー公園の吟行、現在の会長ジェリー・ボール(Jerry Ball)の歓迎挨拶、ノース・カロライナ・ハイク協会会長レナード・ムーア(Lenard Moore)の記念講演「ハイクと長詩を書く―そのジャズの影響」、パトリック・ギャラガー(Patrick Gallagher)の講演「石原八束氏の教え―ハイクにおける誇張表現」だった。 同協会の創設に功のあったハロルド・G・ヘンダーソン(Harold G. Henderson)を記念したハイク賞(Harold G. Henderson Memorial Award)が1976年から設けられており、ちなみに2001年の第1席は、キャシー・コブ(Kathy Lippard Cobb)の「壊れた画架?/前庭が青くなった/野生の花で」(broken easel? / the front yard blue / with wildflowers)であった。  この他にもハイク賞として、1984年から日本の俳句文学館との提携による、俳句文学館賞(Museum of Haiku Literature Award)、2001年からセンリュウのジェラルド・ブレイディー記念賞(Gerald Brady Memorial Award)、レンク・レンガの賞、2000年から句集、翻訳、批評の賞もある。 地方大会が、北東部、北東都市部、南東部、南部、中西部、ロッキー山脈東方の大草原地帯平野部、南西部、加州、北西部、ハワイ、アラスカの各地で行われており、会報にその活動報告が掲載されている。

その他のアメリカのハイク協会

ボストンハイク協会(Boston Haiku Society)

月に一度定例ハイク会を行う。作品の朗読会を図書館、美術館などの会場で行っている。同協会はボストン音楽学校と共催で、2001年6月に「北米ハイク大会」を行い、ハイクの音楽的演奏を行った。アメリカ、カナダから集まった様々なハイク協会会員などによる朗読、吟行句会、お茶会、墨絵の展示も行われた。同協会は日本文化を広く紹介することを目的とし、お能、盆栽、色紙、書も紹介している。

北ジョージア・ハイク協会(The North Georgia Haiku Society)

機関誌「松毬」(pinecone)を隔月刊行で発行し、定期的にアトランタ地区の会員自宅で集まり、ハイク会を開く。

有季定型ハイク協会(The Yuki Teikei Haiku Society)

この協会は、1975年に徳富清氏と徳富喜代子氏夫妻によって、加州サンホセで創立された。この会の特徴は、日本の伝統的な俳句作法にのっとった作句をむねとする、というものである。つまり季語と575の定型を遵守するということである。 会員数は90名、毎月句会を行い、隔月刊の機関誌「月報」(Geppo)を出版し、会員は毎月3句をここに出句し、それは匿名で発表され、会員同士が互選によって最高作品を選び、最高得点の10句がその次の号に発表される。その中の会員の同会25周年記念出版物としてアンソロジー「若葉」(Young Leaves)も出版した。カリフォルニア州の歴史的リゾート地アシロマー(Asilomar)で、毎年、ハイク合宿を行う点に特色がある。2002年のハイク合宿は、1月10日から13日に行われ、次回は2002年9月6日から9日までの予定とのことである。徳富清記念ハイクコンテストというハイク大会も主催している。特別事業として、サンフランシスコ地区季語プロジェクトによって、サンフランシスコ地域の風土に根ざした新季語を発掘している。

 

ノース・カロライナ・ハイク協会(North Carolina Haiku Society)

本会は、1979年に英語ハイクの推進のためレベッカ・ボール・ラスト(Rebecca Ball Rust)によって設立された。「松葉」(Pine Needles)という機関誌を出している。恒例のハイク・ホリデイ(大会)を開催する。第1回のハイク・ホリデーは、1980年1月26日にノース・カロライナ州チャペルヒル近郊のボリン・ブルック農場で行われた。 現在の会長はレナード・ムーアである。

北カリフォルニア・ハイク詩人会(Haiku Poets of Northern California)

1989年の創立で、センリュウ、レンク、レンガ、タンカ、ハイブンも含んだ創作・批評活動を中心とする会。会合、朗読会を定期的に開き、Two Autumn reading seriereを毎年出している。サンフランシスコと北カリフォルニア周辺の会員からなる。季刊の会報、「マリポーサ」(Mariposa)という機関誌を年2回発行している。会員によるハイク・センリュウのアンソロジーも出版している。年に4回、3ヶ月に一度第3日曜日に、主にサンフランシスコのフォート・メイソン(Fort Mason)で会合を開き、 朗読会、ハイク・タンカやそれに関する作品の発表、句会、出版物展示即売などを行う。

ハイク雑誌(印刷物として出版されているもの)

「フロッグポンド」(Frogpond)

ブリズ・スピリット(Blithe Spirit)編集。 アメリカハイク協会より、季刊で発行

「どんぐり」(Acorn)

A.C. ミシアス(A.C. Missias)編集。 年に2度刊行。

「ボトル・ロケッツ」(bottle rockets: a collection of short verse)

スタンフォード・フォレスター(Stanford Forrester)編集。 ハイク、センリュウ、それに準ずる詩を掲載する。1999年11月に創刊、年に2度刊行。

「カメレオン」(Chameleon: a renga journal)

ゼイン・パークス(Zane Parks)編集。 レンガ、あるいはレンクを専門とするハイ誌。

「モダンハイク」(Modern Haiku)

リー・ガーガ(Lee Gurga)編集。 「モダンハイク」は、日本以外で最も古く質の高いハイ誌で、創刊したケイ・タイタス・モーミノによって1969年から1977年まで編集された。ハイク、センリュウ、ハイブン、ハイ論、翻訳、書評を掲載する。モーミノから編集を引き継いだロバート・スピースが1978年から2002年まで編集を担当した。現在はリー・ガーガが編集を担当している。

インターネット上のハイク雑誌

「茶葉」(chaba)
ジョン・フーダック(John Hudak)編集。

「花みずき」(Dogwood Blossoms)
ゲアリー・ワーナー(Gary Warner)編集。

「インターネット英語ハイク」(English-Language Haiku on the Web)
ランディー・ブルックス、シャーリー・ブルックス(Randy and Shirley Brooks)編集。

「ハイガ・オンライン」(HAIGA Online)
ジャン・エムリッチ(Jeanne Emrich)編集。

「ハイジンクス」(haijinx)
マーク・ブルックス(Mark Brooks)編集。

「ハイク夕暮れ」(Haiku Dawn)
ルイス・サンダース(Lewis Sanders)編集。

「ハイク収穫」(Haiku Harvest)
デニス・M・ギャリソン(Denis M. Garrison)編集。

「ハイク小屋.com」(Haiku Hut.com)
マイケル・レイリング(Michael Rehling)編集。

「ハイクの光」(Haiku Light)
エリザベス・サン・ジャック(Elizabeth St Jacques)編集。

「葉っぱの坑夫」(Happa-no-Kofu) ("Leaf Miner")
カズエ・ダイコク(Kazue Daikoku)編集。

「鷺の巣」(The Heron's Nest)
クリストファー・ヘロルド(Christopher Herold)編集。

「小さな言葉」(Tiny Words.com)
d.f.トゥエニー(d. f. tweney)編集。

「世界ハイク批評」(World Haiku Review)
世界ハイククラブ(The World Haiku Club)編集。

2002年7月15日