会員の活動報告


ウラジオストクでの俳句紹介

蛭田 秀法

この秋、秋田国際俳句・川柳・短歌ネットワーク(幸野稔理事長)の企画により極東連邦大学東洋学大学を主会場にウラジオストクで俳句を紹介する機会があった。9月25日秋田を出発、その夜ウラジオストクに到着。10月2日までの滞在であった。

滞在中は、ウラジオストク日本センター所長の大石莊平氏と極東連邦大学准教授スレイメノヴァ・アイーダ氏(与謝野晶子記念文学会会長)の協力のお陰で学校訪問、ワークショップ、講演などを通じて俳句を紹介しながら、俳句を広めることができた。極東連邦大学の学生、デャコブ・イリヤ君が通訳とガイドとして活動を手伝ってくれた。

9月26日の午後、日本センターと極東連邦大学東洋学大学日本学部を表敬訪問。大石莊平所長とシュネルコ・アレクサンダー日本学部長にお会いし、国際俳句交流協会(有馬朗人会長)からのメッセージをお伝えした。
日本語と英語によるHIAへの入会案内を説明。機関誌HIの94号と95号を贈呈。さらに、訪問の目的を話し協力を依頼。ウラジオストクでの俳句の広がりを期待した。

表敬訪問中極東連邦大学東洋学大学の前庭に建立された仏像と歌人与謝野晶子の詩「旅に立つ」の記念碑を目にしたのは、大きな驚きであった。また、浦潮本願寺の記念碑も大学の近くに建立されてあった。

ウラジオストク写真1 ウラジオストク滞在中日本語と日本文化に興味関心を抱いている子供たちや学生、そして市民に俳句を楽しみながら語ることができた。

東方学校の訪問では、日本語を教えている先生たちと俳句について話し合い、日航財団の編集による地球歳時記Vol.8 (みずのうた)、Vol.10 (かぜのうた)、 Vol.11(がっこうのうた)の3冊を贈呈。また、「世界こどもハイクコンテスト」のポスターも贈呈した。

その後、幼稚部で日本語を学習している園児たちの2クラスでそれぞれ20分間俳句について話をした。「はいく」という言葉を教え、日航財団が編集した地球歳時記からロシアの6歳の子供が書いたハイクを紹介。

かたつむりさん 学校にちこくした 24時間おくれてる

極東連邦大学の学生による通訳でクラス中に笑いが広がった。「じゃんけんぽん」という言葉も教え、勝った場合国際教養大学の留学生が作った俳画ポストカードの中で好きなカードを選べるというゲームを行い、盛り上がった。

小学部(7~9歳の小学生が対象)の日本語の選択クラスでは60分間の俳句のレッスンを生徒と共に楽しんだ。地球歳時記からロシアの子供たちが描いた絵と俳句を日本語とロシア語で数句紹介。生徒たちは日本語とロシア語の両方で俳句のコーラス・リーディングを楽しんだ。 また、秋田県の小学生が描いた俳画のコピーと国際教養大学の留学生が作った俳画ポストカードを生徒たちにプレゼントした。最後に、生徒たちは日航財団が主催する世界こどもハイクコンテストに応募するために「お祭り」をお題として絵を描いたり、ハイクを書いたり、楽しい時間を過ごした。

極東連邦大学地域・国際研究学部では90分間のハイク(短詩)についてのワークショップを4日間に渡って行った。ワークショップの後、先生たちから俳句を講義で取り上げたいというコメントをいただいた。

指導過程は次の通りであった。

  1. 日本語の俳句について
  2. 英語によるハイクについて
  3. 俳画と俳句について
  4. 秋田県の中学生が描いた俳画と俳句を紹介
    音読、そしてロシア語への翻訳と発表
  5. 国際教養大学の留学生が描いた俳画と俳句から作ったポストカードで
    日本語の音読、そしてロシア語への翻訳と発表
  6. 日本語による俳句創作とロシア語によるハイク創作
  7. 発表

ウラジオストク写真2 学生による日本語とロシア語による俳句の発表はとても意欲的で流暢であった。ワークショップを通じて、学生はユーモアがあったり、皮肉のある俳句を好むことが分かった。深刻なものより、何か軽みのある俳句を好むようである。

次の芭蕉の句は学生たちに最も喜ばれ、笑いを引き起こした。

鶯や餅に糞する縁の先   芭蕉

ウラジオストク日本センターでは文化講座で開催しているお茶会「一期一会」の会員を対象に「俳句と茶道について」講演。

講演の前にお茶会の作法に従ってお茶を点てていただいた。

お茶をごちそうになったお礼にお気に入りの日本民謡である「黒田節」と「生保内節」の2曲を紹介。

それから、「生保内節」の中で使われている言葉「宝風」を取り込んだ句を紹介。9月25日に東京へ向かう新幹線の車中で詠んだ俳句であった。

宝風立つ高原や蕎麦の花  秀法

その後、「俳句と茶道」についての講演に進んだ。
始めに、芭蕉の俳句を数句紹介。最初の句は秋田県象潟を訪問したときの句、その他はお気に入りの句であった。
最後に次の句を紹介した。

古池や蛙飛びこむ水の音   芭蕉

芭蕉の句中の「水の音」を取り上げ、この音とお茶を点てるときに「茶碗の中で湯と抹茶を茶筅で撹拌する時に出る音」を比較。
俳句も茶道も禅の影響を受けていることを紹介。
小宇宙の中で俳句は「永遠の今」を、茶道は「本来の今」を求めるのではないかと結論。
講演の後で、このような話が聴衆に大反響を起こし次回は「俳句と季語」についての講座になるとのコメントが寄せられた。

特別な参加者としてウラジオストクから約750km離れた所に住むセミョノバ・ラリッサ氏(女流俳人)がバスと電車を乗り継ぎ日本センターに駆けつけた。ロシア沿海地方に住むフェイスブックを通じての友人で、「イサ(Isa)」という俳号を持ち、ボランティアとして小学校で日本についてのサークルを結成。子供たちに俳句を教えている。

"побились тарелки" - пара строк
от токийского друга...
густой мартовский снег
(Иса)

降りしきる雪の三月
届く声「食器割れた」と
東京の友
(イサ)

これを契機にこのような文化交流が拡大し、シベリア鉄道で俳人が行き交い、俳句がロシア中に広がりロシアの人たちに愛されていけばと思う。

蛭田秀法(国際俳句交流協会会員 秋田国際俳句ネットワーク編集人「天為」会員)