俳句紀行


俳句紀行 - 第16回

2011年年3月11日に起きた東日本大震災の後、日本国内はもとより海外でも、レクイエム、衝撃、再生へとそれぞれのテーマで多くの句が詠まれています。被災された地域の一日も早い復興をお祈りいたします。

2011年年4月16日に東京・渋谷区文化総合センターで、国際ロータリー第2750地区のロータリー俳句大会が開かれました。会を指導された「野の会」主宰、鈴木明さんの一句に即興で英訳を付けて下さいと頼まれたので頑張ってみました:

東北のさくら大きなこゑをだせ      鈴木明

cherry blossoms in Tohoku,
raise your voice
louder and louder            Suzuki Akira

思いを込めて作った俳句が、少しでも復興へのエールとなればと思います。

東日本大震災の前日になってしまいました2011年3月10日に、日本英語交流連盟主催のワークショップ「英語で俳句 第8弾」が東京・六本木の国際文化会館会議室で開かれました。インドでの俳句の種蒔き(2月20日‐3月6日)から戻った直後でしたので、タゴールの『蛍』と日本の俳句を対比させながら俳句の特徴を整理してみました。また、サンスクリット学校で教えてもらったfeelingのサンスクリット語、ラサ、が俳句には重要であること、俳句は頭で考える詩でも教訓をたれる詩でもなく、感覚の詩であると「ラ~サ!」と言って強調しました。9句集まりました事前投句の一つ一つを13名の参加者と一緒に英語で鑑賞いたしました。作品の中から2句、評判のよかった句をご紹介します。

the Sky Tree
touches the moon—
hazy night                Matsumoto Shôji

この句は満場一致で、皆さんが気に入った句でした。

a butterfly
gone into dusk
with mother's soul            Yûki Aya

<母の魂を連れて>、蝶が夕暮れに消えたのかどうかは、実際には確かめることは出来ないのですが、この表現に共感が集まりました。この句は、切れが無くセンテンスのように読めること、intoではなくてinで十分ではないかという意見が会場から出ました。

会場で箇条書きにしました「英語で俳句を作る時のポイント」、おさらいです:

  1. season word / seasonal reference
    季節の言葉、季節感
  2. two parts in three lines→juxtaposition
    異なる二つのイメージの並列
  3. personal, sensory, and concrete image
    日常的な、感覚的な、具体的なもの
  4. start with lower case, no period at the end
    小文字で始めて終止符は打たない
  5. enjoy life→enjoy haiku!
    暮らしを楽しみ、俳句を楽しむ

HIA書棚より一冊の句集をご紹介します。会員の片山タケ子さんの『句集薔薇の昼Afternoon among Roses』(永田書房、2010年)です。片山さんは、20年ほど前に山口誓子の英訳句集と出会い、俳句を英語の三行詩に変換できることに魅了されたそうです。思い立って、平成11年にNHK俳句講座で伝統の俳句を学ぶところから始めて、英語HAIKUにも磨きをかけて上梓の運びとなった片山さんの夢の結晶です。

羽根ペンとインクの匂ひ薔薇の昼      片山タケ子

hanepen to ink no nioi bara no hiru

A quill pen
and the smell of ink. . .
an afternoon among roses        Katayama Takeko

香水買ふ恋の予定はあらざれど       片山タケ子

kôsui kau koi no yotei wa arazare do

A lovely perfume
though there's no expectation
to fall in love                Katayama Takeko

2010年6月22日から一年間の予定で続けていました実践で俳句を学ぶネット句会「Bouquet of Lilacsリラの花束」が終了しました。毎月、16名の参加者(2010年5月22日にカナダのモントリオールで行った俳句ワークショップ参加者の会です)が当季雑詠1句を出し、無記名の清記から5句を選び、全員が選んだ理由を挙げます。以前「朝日ウイークリー」英語俳句欄の選者を一緒にやりましたMichael Dylan Welchさんと私でコメントや添削を加え、A4紙に10.5ポイントの文字で20枚ほどになる句会報に纏めてきました。4月でもまだ雪の残る冬の長いモントリオールと、2月4日が立春で春の季語を使い始める日本との季節感のずれや、生活環境の違いなど、カナダ人、アメリカ人、そして日本人の混じった面白い句会となりました。以下、繰り返し出てきましたアドバイスの例:

a box of hand-me-downs
from my daughter—
foxtails into seeds      Emiko

一箱の娘からのお下がり 猫じゃらしは種に    惠美子

この句は5回目の2010年10月の句会に出した私の句ですが、2011年5月にニューヨークのRoute 9 Haiku Groupの年二回発行の会誌『UPSTATE Dim Sum 点心2011/ 1』(www.upstatedimsum.com) にゲスト俳人として招かれて6句載りました中に収めました。毎月の句会のお陰です!『点心』の後書きより:

As we go to press with this issue our friends in Japan are still dealing with the consequences of the earthquake, tsunami, and reactor failures of March. Our loving thoughts and prayers are with them always. (John Stevenson)

as the earth quakes
she places fallen cans
back on the shelf      Tom Clausen

この号を出そうとしている今もまだ日本の友人たちは3月に起きた大地震や津波の後始末や原子力発電所の事故の対応に追われています。私たちの思いと祈りは、いつも彼らと共にあります。

大地が揺れると 彼女は落ちた缶を 棚の上へ戻す   トム・クラウゼン


<付録> 「HI93号」後記に載せました報告文です。

俳句の種蒔き インドへ

宮下惠美子

コルカタの日本語学校の生徒さんたちと

2011年はアジアで初めてのノーベル文学賞を受賞したラビンドラナート・タゴールの生誕150周年に当たる。4年前にコルカタのタゴールハウスを訪れて、歴史ある講堂で俳句の朗読が出来たら素敵だなと思った。三宿の江口書店で大正14年出版の二冊のタゴールの小説、一冊は更紗表装の『ゴーラ』を見つけた時には、インドラニ・ゴーシュ館長にお届けしなければと思った。

その夢が叶い平成23年2月24日の午後に、2冊の贈呈式とラビンドラ・バラティ大学の学生と教授を前に俳句の講演をさせて貰うことが出来た。コルカタではカラバルティ主宰のママタ・ニヨギ・ナクラさんの尽力で他にも、ジャダプール大学、スロジワラ・チャツパティ、ハオラサンスクリット学院で講演、ニガム和子先生の日本語の学生たちと俳句ワークショップを2回行った。

コルカタのハオラサンスクリット学院にて

デリーでは、印日文学文化協会会長のウニタ・サチダナンド先生のお陰でジャワハルラル・ネルー大学のゲストハウスに滞在することが出来、デリー大学では日本語科のクラスで種田山頭火の紹介、ジャワハルラル・ネルー大学のファカルティーセンターではインドの詩人たちに日本の俳句を紹介して彼らの詩の朗読を拝聴した。

種蒔きの最後は3月3日のデリーの国際交流基金講堂、詩人のギルダル・ラティーさんが司会をして下さった。タゴールが日本の短い詩歌に影響されて書いたという『蛍』の一節と日本の一句の比較を通して俳句の構造、季語の働き、そして五感をフル活用する「言い切らない」詩形であること等を紹介し、ヒンズー語やベンガル語で詠んだ俳句の英訳をインドからの声として英語が共通語となっているインターナショナル俳句コミュニティーへ発信して下さいと結んだ。

コルカタのタゴールハウスの館長室にて

続く第二部はウルドゥー語の詩人たちが、サチダナンド先生と高倉嘉男さんによる和訳とカタカナ読みのついた『ウルドゥー語の花束』(New Delhi, India: Indo-Japan Association for Literature & Culture, 2010)から朗読をした。

インドへ持参した母の手縫いの<俳句の種袋>200個も配り終えた。二週間に亘る俳句の種蒔きの後に待っていたのは、ハリドワールのガンジス河であった。雪解水の白緑色の急な流れへ鎖に掴って入り沐浴をした。

the Great Banyan tree

through the aerial roots
of the Great Banyan tree—
again, the koel      Emiko Miyashita

バンニャン大樹の気根の間より
春を告げるコエル(ホトトギス科の鳥)の声が
また聞こえる

Sowing Haiku Seeds in India

Emiko Miyashita

India is celebrating the 150th anniversary of the birth of the first Asian Nobel Literature Laureate, Rabindranath Tagore in 2011. When I visited the Tagore House in Kolkata, India, in 2007, I wished to return, to recite haiku in its historic auditorium. When I found two Japanese-translations of Tagore’s novels published in 1925 at a used bookshop in Tokyo, I was confident that Tagore House would provide a better home for them.

On 24 February, 2011, I was very fortunate to be able to donate the books to Mrs. Indrani Ghosh, the curator, and give a lecture on haiku to the students and faculty of Rabindra Bharati University in the very auditorium I had visited before. Supported by Mrs. Mamata Niyogi Nakra of Kalabharati, I gave more lectures on haiku at Jadavpur University, Surojjwara Chatuspathi, and at Howarah Sansckrit Sahitya Samaj in Kolkata. Also two haiku workshops were organized by Mrs. Kazuko Nigam for her students who were learning the Japanese language.

In Delhi, the president of the Indo-Japan Association for Literature and Culture, Dr. Unita Sachidanand, kindly organized a class at Delhi University to introduce Santoka Taneda, a lecture and reading with Indian poets at the Faculty Centre of Jawaharlal Nehru University, and my last lecture was held at the Japan Foundation in Delhi on 3 March. Mr. Girdhar Rathi, a renowned Indian poet, chaired the session. By comparing Japanese haiku with verses from Tagore’s Fireflies, which is said to have been written by the influence of Japanese short poetry, I tried to explain the structure of haiku, the effect of season words, and that haiku was a poetry form of feelings. Also that haiku is incomplete by itself and needs readers to fill in details for its full appreciation. I closed my lecture by asking participants to write haiku in their own languages, and to share their English translations with the international haiku community. Then a reading from Bouquet of Urdu (New Delhi, India, Indo-Japan Association for Literature & Culture, 2010) followed by the Urdu poets.

Two hundred haiku seed bags sewed by my mother are now in the hands of haiku poets-to-be in India. After two weeks of my journey to sow haiku seeds, I was blessed with an opportunity to dip myself in the Ganges at Haridwar, where the greenish-white snowmelt water was flowing fast.

through the aerial roots
of the Great Banyan tree—
again, the koel      Emiko Miyashita, in Kolkata

*Koel is a bird that indicates the arrival of spring.

ガンジス河の沐浴

ご健吟を!


筆者紹介

宮下惠美子