ジェームス・W・ハケット 10句選・短評
中村泰美 訳 |
 
Brain Wells(UK)
ブライアン・ウェールズ(イギリス)
| the dying bee on the path |
路上の死に際の蜂が |
| scatters its pollen |
花粉を撒き散らす |
冬蜂死すあたり花粉を散りばめて
驚くべき細心の注意を払って断末魔の瞬間を生のもう一つの側面として捉えた句である。
客観的な一行目の表現が暗示に富んでいて神秘的だ。ここにはいかなる感傷もない。ただそこに感じられるのは小さな生き物に注がれた作者の暖かい視線と慈しみである。
この句は形式において伝統を完璧に踏まえており、作者の大変な努力が偲ばれる。しかし、よい英語俳句は形式がすべてではない。この句が示すように細心の注意で自分の経験を活写することが非常に大切なのである。
Patrick Blanche(France)
パトリック・ブランシェ(フランス)
| One apple, just one, |
りんごが一つ、ただ一つ |
| the abandoned orchard |
荒れ果てた果樹園に |
| reddens for winter |
冬に向かって赤らんでいる |
| (tr. By James Kirkup) |
(英訳:ジェイムズ・カーカップ) |
りんご一つ一つ灯して園荒るる
Robert Bebek(Croatia)
ロバート・ベベク(クロアティア)
翻訳者不詳
| in no way can I walk |
私はゆっくりと歩いている |
| slowly enough |
これ以上はゆっくり歩けないほどに |

Billie Wilson, Alaska, USA
ビリー・ウィルソン(アラスカ、アメリカ)
| Tears blur the meadow -- |
涙に牧場の草が潤んで見える |
| nuzzles my hand. |
手に鼻を摺り寄せてきた |
若駒や涙に潤む牧の草
Lee Guarga(USA)
リー・ガーガ(アメリカ)
| running with the car-- |
車を追いかけて |
| the tip of the dog’s tail |
犬の尻尾の先が |
| through the knee-high corn |
膝の高さのもろこし畑越しに |

Caroline Gourlay(UK)
キャロライン・グーレイ(イギリス)
| in the small gap |
揺れる茨の茂みの |
| between quivering nettles - |
小さな隙間から |
| rabbit’s still eye |
野うさぎのじっと見つめる目 |
薔薇壷に野兎の目の赤さかな


 
 
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