英作ハイク -入門-

お知らせ





英作ハイク - 入門編 -

北京オリンピックの年も静かに明けました。新年から始まりました「朝日ウイークリー」の英語俳句コラムも順調な滑り出しとなり、嬉しく思っています。このコラムは添削とうたっていますので、そのまま載せて鑑賞を述べるだけではなくて、一捻りも二捻りもしての掲載をしています。原句は載せていませんが句の解剖的なこともやっています。もちろん英語が母国語ではない私ですので、英語の表現に関しましてはマイケル・D・ウェルチさんにお手伝いを頂いています。

投句先の専用アドレスが出来ました。当季雑詠一句を aw1@asahi.com まで!

1月25日で銀座一丁目の昭和の灯がまた一つ消えました。俳人鈴木真砂女さんの「卯波」(お孫さんの今田宗男さんが継いでいました)が、一帯のビル開発の為に閉店となったのです。おりしも角川出版の新年会が東京會舘で行われた日でして、大勢の俳人が「卯波」のある東京に集結していました。最後の夜を見守るために集まったかのように思えたのでした。27日の日曜日にはガレージセールも開かれて、私も白い夏の麻暖簾と石田波郷の椅子といわれているカウンターの椅子と隣の椅子の2脚をゲットしました。おまけに真砂女さんの愛用のプラスチックのトモエソロバンと座敷へ上がる踏み台を頂いてしまいました。大勢の「卯波」ファンが名残を惜しんで食器類、机、など買っていました。「卯波」の暖簾と暖簾の竿は岐阜へ買われていきました。50年の歴史を刻んだ「卯波」の記念碑あるいは鈴木真砂女の句碑を近くの公道に建てられないかと「卯波」で知り合った上田令子江戸川区議、そして小坂和輝中央区議、田中耕太郎中央区議らと区に働きかけて何ができるかを検討していきたいと思っています。

アメリカハイク協会の2007年度会員合同句集『flower of another country』が届いています。タイトルポエムとなったのは、クリステン・デミングさんのこの一句です。

Bashô's anniversary-
on his gravestone
flower of another country       Kristen Deming

芭蕉の忌 彼の墓石の上に 異国の花 (直訳・宮下)

京都の俳人で「ヘイルストーン(霰)ハイクサークル」主宰のスティーヴン・ギルさんから合同句集『SEASONS OF THE GODS 神々の四季 2007』(ISBN978-4-9900822-3-9)が送られてきました。ギルさんの序に「この本にある詩のすべては神々を礼賛する心によって生命を得たり、その具象の形を描いたりしている。神への賛美はアニミズムと神話をルーツとする世界観で、それは農家の人達、踊り子、そして詩人、星を見上げる者達のために四季の暦をささえ、我々が決して置き去りにしないようにと願った緑の大地へ回忌する入り口となるものである。」とありました。3句ほどご紹介します。

Thunderous hooves. . .
Heralds of the New Year's
Bright dawning            Jane Wieman

新年のうるはしき夜明けの使者なるや
天馬空駆く蹄の音す



Back through the torii
Each worshipper's face. . .
Found by a ray
Of First Day sun              Tito

初詣鳥居をもどる顔顔に
晨のひかりさしこみきたる



at the Oil God's shrine
a cicada chorus. . .
it sounds like frying tempura!    Syun Sasaki

油祖神社蝉の囃子は揚げ物の音

去年の11月には国際交流基金の派遣でインドへ行き、英語で俳句の講演と実作・句会のワークショップを計5回行ってきました。「HI」74号の後ろの方に短い報告を書きました。

宮下流生花「春隣り」

宮下流生花 「春隣り」


英語ハイクの鑑賞
ワンポイント・俳句の英訳
ワンポイント・英作ハイク
英語ハイクの鑑賞

今回は、橋本圭好子さんの英語の対訳付き第3句集『月の兎』(角川書店、2008年)より3句鑑賞してみたいと思います。橋本さんは、国際俳句交流協会創立の発起人のお一人で、俳句は長谷川かな女さんへ入門されたのが始まりです。「水明」同人です。この句集には1987年から2005年までの句が収められており、見開きの右のページに3句、左のページには対訳の英語ハイクが3句並んでいます。あとがきに、「今、俳句は世界的な広がりを見せている。森羅万象に宿る命の輝きと叫びに感応し、山川草木の美に向き合って最短の詩形に詠みあげる俳句に、心が惹かれるのだと思う。」とありました。

びつしりと蕾明かりの夜の椿

Dense with buds
the brightness of the night
of camellias           Hashimoto Kayoko

沢山の蕾をつけた椿の木、花弁の色も明らかに今にも咲き始めそうな椿の蕾です。白椿、或いは淡いピンクの藪椿でしょうか。木のシルエットの中にびっしりとひしめく開花直前の蕾の存在感が「蕾明かり」と作者には映りました。英訳は、蕾が密集して椿の夜の明るさ、となっています。春の予感の句ですね。

マニキュアを塗ればひんやり冬ありぬ

Having a manicure-
with its cool touch
winter is there

感覚的に冬の訪れを詠った句です。一行目、Having a manicureという表現ですが、髪を切る(to have a haircut)と同様にやってもらう美容院での景でしょうか、美容師さんに爪の手入れをしてもらい甘皮を切り取ってからマニキュアを塗ってもらっています。前回ご紹介したロバータさんに伺ったところ、美容院でやってもらう場合にアメリカではgetting a manicureまたは、getting my nails doneと言い、自分で爪を塗る場合はdoing my nailsと言うそうです。一行目の終わりにダッシュがありますから切れが入っています。下の二行は、ひんやりした感触を伴って冬がそこにある、となります。Thereとありますから、作者のいる美容室ではない他のところに冬があるのでしょう。

新涼の鏡に他人の顔がある

First autumn coolness-
in the mirror my face looks
like a stranger

cool を使った句をもう一つ。こちらは新涼ですから、8月のまだ残暑の残っている季節です。心地良いはずの新涼ですが、どこかよそよそしい「他人の顔」を取り合わせました。英訳の方でははっきりと自分の顔が他人の顔のように映っていることが分かります。夏休みの顔から先生の顔に戻ったのでしょうか、いやいや、もっとすごいメタモルフォーゼが起こったのかも知れませんね。英語ハイクのほうが、やはり多くの情報を入れ込むことが可能なのです。

ワンポイント・俳句の英訳

国際俳句交流協会の事務所の図書コーナーで面白い本を見つけました。少し前の出版になりますが、大変貴重な翻訳であると思いますのでご紹介します。『良寛 短歌・俳句選』 (考古堂書店、Sanford Goldstein, 水口志計夫、北嶋藤郷共訳、2000年)には良寛さまの短歌100首と俳句が20句が解説と共に収められています。句には、英訳の他にローマ字の読みと脚注がついています。

夢覚めて聞けば蛙の遠音かな             良寛

from a dream
I awoke to hear the murmurs
of distant frogs



焚くほどは風がもて来る落ち葉かな

for my fire
the wind brings enough
fallen leaves



倒るれば倒るるままの庭の草

plants
fell in the garden,
never to recover



□ 文政13年7月16日ごろの作と推定される。この年の暑さは、越後では記録的なものであった。良寛は病に倒れ、死に至る。

ワンポイント・英作ハイク

インドで作った英語ハイクです。帰国後の11月23日・24日に拓殖大学で行われた日印友好念記念集会「インドの詩人と研究者を招き、詩の心と形を日印で交流する会」の朗読会で読みました。ニューデリー日本文化センターでの講演にいらしてくださったデリー大学のウニタ・サチダナンド先生からお誘いを受けて参加することになりましたが、インドの詩人・評論家・文学者・映画評論家など錚錚たる方々のお偉方に、聴いていただくチャンスを得まして好評でした。その後、マングレーシュ・ダブラル先生からベンガル語訳にしてインドの詩の雑誌に発表したいという申し出がありましたので、美しいベンガル語の文字になった俳句が見られるかも知れません。


左から宮下、ガンガ・プラサード・ヴィマル先生、詩人のスレス・サリル氏

左から宮下、ガンガ・プラサード・ヴィマル先生、詩人のスレス・サリル氏

from the bottom
of the morning fog
a bamboo broom's strokes

朝霧の底より粗き竹箒                  宮下惠美子

お掃除だけをもっぱらにする人々がいるということに、初めは気が付かずインド人は清潔好きなのだと思っていました。飛行場が閉鎖されるほどの濃い朝霧がたちこめた朝に、ホテルの窓から見下ろすと束ねただけの竹箒(本当は草かもしれません!)の箒の先が時折動いて見えたのでした。

scent of milk
from my simmering tea pan
clear winter sky

茶の煮たつ乳の匂ひや冬晴れて

言わずと知れたインドのチャイです。オールドデリーの紅茶屋さんで買ったお茶を帰国してから入れてみました。正しいチャイの入れかたを教えてもらったので。水4分の3、牛乳1を沸騰させる直前で茶葉を入れ2−3分静かに煮立てた後2分間蓋をして蒸らすのでした。

lean rickshaw drivers
thin black dogs, the bull
on the sunny sidewalk

車夫痩せて犬痩せて牛冬日向

これは見たままの羅列です。どこでも交通渋滞のデリーでは、道路に車とリクシャーが溢れています。今ではオートリクシャーといってエンジン付きが主流です。大抵、長袖のシャツをきて半跏のポーズでハンドルを握っている車夫はスリム。道端の犬もスリム。そして日の当たる歩道を悠然と歩いていたのは牛でした。大渋滞の中では、窓ガラス一枚隔てた別世界を観察するしかありませんでした。

いよいよ梅が咲き始めました。私の今年初めての梅は、1月半ばの東大寺の二月堂へ上がる塀沿いの紅梅でした。1月29日より2月6日まで上野の森美術館で開かれていました写真展「井上博道の眼」を観てきました。東大寺の大仏様を頭の後方より俯瞰する大きな写真は圧巻でした。仏さまたちに命の通う瞬間を撮るためにどれだけの時間を井上さんは仏たちと向き合って待っておられたのだろう・・・と思いました。俳句も向き合うことから始まります。皆様、ご健吟を!


筆者紹介
 
 
宮下惠美子
Miyashita Emiko
自称英語ハイクのフィールドワーカー

・国際俳句交流協会評議委員、「HI」編集委員
・「朝日ウイークリー」 英語俳句選者
・俳人協会会員
・米国俳句協会会員
・カナダ俳句協会会員
・「天為」同人

英語関連の著書・共訳著書
・「Love Haiku: Masajo Suzuki's Lifetime of Love」
・「Einstein's Century: Akito Arima's Haiku」
・「Tsuru:Yoshino Yoshiko's Haiku」
・「The New Pond: An Anthology of English-language Haiku」
・「Haiku」
・「Wagashi」
・「Noh」
・「唐招提寺鑑真和上と盧舎那仏に捧げる 献華写真・献句」等
・「Santōka」
主なフィールドワーク地
アメリカ、カナダ、イギリス、インド、東京・神奈川