英作ハイク -入門-

お知らせ





英作ハイク - 入門編 -

秋も深まってまいりました。この夏から秋にかけては、盛岡・花巻、福島、鎌倉と小旅行が多く、またお彼岸のころには西尾そして伊勢神宮へ参る機会がありました。花巻では稲の花を、また伊勢ではすっかり実った稲田の畦に曼珠沙華の赤が点々と連なる風景を見ることができ、目下は新米に舌鼓をうっています。豊かな恵みに感謝しつつ、さて英作ハイク!

「津波」や「漫画」同様、「葛」は英語でも「kudzu」だそうです。ニューオリンズの俳人ヴォーン・バンティングさんよりこんなハイクと写真のコラボレーション作品を送っていただきました。

秋の葉 葛は失う その亡霊を
うらみの葛亡者の群れを失しないつ
ヴォーン・バンティング(米国)

秋の葉 葛は失う その亡霊を  
うらみの葛亡者の群れを失しないつ    ヴォーン・バンティング(米国)

フランスで人気の一茶の俳句・コンサートレポート

2007年10月11日の東京、草月会館では「俳句 de Haiku」CD<水識音MI・O・LI・NE>発売記念と銘打って一茶の俳句コンサート実行委員会主催、フランス大使館文化部の後援による日仏の文化交流の夕べが開かれました。俳人黛まどか氏とマブソン青眼氏の対談では、フランスでは芭蕉や蕪村ではなく、一茶の人気が一番高いというお話がありました。一茶の俳句の音韻的な、また民謡からも影響を受けているという特徴の指摘。特に50歳をすぎて後、別人となった一茶の俳句の素晴らしさについて、マブソン青眼さんは見事な一茶口調の朗読を交えて力説され、聴き応えがありました。

1903年に若干24歳で来日し帰国後の1905年には運河放浪の旅の感興をまとめたポール・ルイ・クーシューの三行の俳諧形式で詠んだハイカイ集『水の流れるままに』が海外で出版された句集の第一号であること。フランス語には強弱がなく平坦なので17音節を生かした作句が可能であること。また海外の俳句愛好家には三種類あって、第一段階では、短い俳句では言葉が象徴的に使われて言外の多くのことを含ませることができるという驚きで満足してしまうタイプ。第二段階では、ここから二股に分かれるのですが、R.H.ブライスが表した四巻になる『俳句』の影響で俳句を通して禅宗的な悟りを体験したいという、サンフランシスコのビート詩人たちのようなアメリカ人に多くみられるタイプ。そして三番目には、フランス人に多くみられクーシューもこのタイプに属していますが、自然と一体となる方向を目指すタイプがあるそうです。マブソン青眼さんが提唱しているのは自然・エコロジー思考的俳句。黛まどかさんが「エコ俳句」と呼んでおられました。

第二部ではフランス現代音楽と一茶の俳句、そのフランス語訳のコラボレーションという文化交流の火花が散りました。マブソン青眼さんが、「俳句もバイブレーションです。」と発言されていたのが印象的でした。現代フランスを代表する作曲家ルノー・ギャヌー氏による一茶の曲のいづれからも黛まどかさん、そしてカトリーヌ・ベルコディアさんの朗読と同じバイブレーションが感じられました。同時に版画やドミニク・シポーさんの写真と俳句、JAL世界子供俳句の展示も行われ、コンサート後にはミニパーティー、サイン会も開かれました。

浄土真宗と一茶・講演レポート

2007年10月12日に、米国ニューオリンズから一茶の研究で知られるデイビッド・ラヌー教授(ザビエル大学)が来日し、浅草の東本願寺「秋季浄土真宗大学講座」で講演をされました。ラヌー先生は、すでに一茶の句を8000句も英語に翻訳されており、ここでも以前にその一茶のサイトをご紹介いたしました。当日の演題は「西方へ:此の世・浄土・一茶の俳句」(通訳付き)。

「西、西方」が読み込まれた一茶の句を引いて、「西」が阿弥陀如来の西方浄土の位置を示すとし、西方浄土は何処にあるのかという検証をしていきます。「鶯や弥陀の浄土の東門」の句から、一番此の世に近いのは浄土の東門であるとして、それが鶯の囀る中に出現しているというのです。一茶は浄土をはるか遠くにあるものとしてではなくて、自然の移ろいの中に見る桐の葉、桜、蛇、鶯などに仏性を認め、それを眺める自らの内に、すなわちその「今の此処」の瞬間に浄土が在るのだという俳句を作っていきます。「花咲いて娑婆即寂光浄土哉」、「春立つや弥太郎改めはいかい寺」というわけです。結論としては親鸞聖人の至った境地と一茶が俳句で示した境地は同じものではなかったかという思いをラヌー先生はお持ちであるということのようでした。

カナダの女流俳人の歴史・講演レポート

カナダ、モントリオール在住のフランス語と英語の両言語で作句される俳人・編集者であるジャニック・ベロー氏を招いた現代俳句協会国際部主催による講演会が10月14日に行われました。1928年に出版されたハイク14句を含むシモーヌ・ルツィエーの詩集『ルモルテ アドレサント』がカナダで最初に出版されたハイクであることから始まり、1985年までの草分け的なカナダの女流俳人8名の紹介が代表句を交えて紹介されました。現在のハイクカナダが主催するベティー・ドレヴィニック・ハイクコンテストは、カナダ俳句協会の創立に尽力しその後会長も努めたドレヴィニックを記念して毎年行われているもので、どなたでも応募できるそうです。
ドレヴィニックの一句:

brilliant sunshine

through autumn maples

a glimpse of the lake

輝く太陽光  秋の楓の木々の間から  湖の一瞥

                   ベティー・ドレヴィニック Betty Drevniok

第二部では、ベローさんの俳句の朗読そして質疑応答。ベローさんから聴衆に現代俳句協会では無季も認められているけれども、切れ字と切れについてはどのようにお考えですかという質問がでました。ベローさんからは、英語・フランス語のハイクにおける切れ字と切れについてお話がありました。興味深かったのは切れのお話の中で、二行目と一行目で一つのイメージをまとめ、同じ二行目と三行目でもう一つのイメージを表す、二行目が二つのイメージの両方に使われるという作句の仕方でした。この他に三行の内の二行を頭韻あるいはその行の中で同じ音を用いることをし(詩に見られるように最後にはあまり用いないということでした)一句を二つの部分に分けるという方法もご紹介いただきました。
ベローさんの一句:

clair de lune  son corps au seuil de la mort  plus blanche la neige
moonlight  her body at the threshold of death  the snowflakes whiter

月光や臨終のとき白く雪舞ふ    ジャニック・ベロー Janick Belleau

*10月13日には、ベローさんとラヌー先生もご一緒に、目黒区民センターで開かれました目黒国際俳句の集い(http://www.geocities.co.jp/Bookend-Christie/5203/ 代表:小金井康臣) に参加しました。英語ハイクを一人一句、記名で出句しまして、作者が読み上げ、合評をするという形式の句会でした。英語でハイクを作っておられる方には、合評という場は大変貴重であると思いました。次回は11月10日だそうです。

『HAIKU(俳句)――この別世界』リチャード・ライト著のご紹介

HAIKU(俳句)――この別世界

(ISBN978-4-7791-1272-0 2800円+税)

1960年にフランスで亡くなったアメリカの作家リチャード・ライトが晩年に書き残した4000句あまりのハイクより817句を原句(英語)と日本語(木内徹・渡邊路子氏による直訳と俳句訳)で紹介する本が2007年7月5日に出版されました。『HAIKU(俳句)――この別世界』(彩流社)は、伯谷嘉信・ロバート・L・テナー編として出版された本(Haiku: This Other World, Arcade, 1998)の完全翻訳版です。尚、47ページにおよぶ<あとがき―解説にかえて>が付いており分かりやすく解説されています。二十世紀アメリカ文学の巨匠チャード・ライトがその晩年に選んだ詩形、5−7−5シラブルハイク、による自選作品集。

リチャード・ライトの代表作『アメリカの息子』、『ブラックボーイ』他。

我名無し秋の夕日に取られけり
 
 私は無名
 沈む赤い秋の太陽が
 私の名前を奪っていった


I am nobody:
A red sinking autumn sun
Took my name away.


雪に手を白くなるまで差し出す子

  降る雪に
  笑いながら少年は白くなるまで
  手のひらを差し出す


In the falling snow
A laughing boy holds out his palms
Until they are white.

「朝日ウイークリー」 英語ハイク募集!

来年の1月より毎月1回、「朝日ウイークリー」紙に英語俳句のコーナーが登場します。宮下が選をさせていただくことになりましたので、皆様ふるって力作を送ってくださいませ!

「朝日ウイークリー」英語俳句応募要項

  • 締切 11月25日(日) 必着 (初回掲載分)
  • E−メール:aw@asahi.com
  • ファックス 03−5541−8534
  • はがき 〒104-8011 朝日新聞国際本部朝日ウイークリー編集部 俳句係
  • 一人一句 テーマは自由ですが、作品は自作で未発表のものに限ります。
  • 今回はなるべく年の瀬や新年にふさわしい句を!
  • 住所、氏名、年齢、職業、電話番号を明記のこと

英語ハイクの鑑賞
ワンポイント・俳句の英訳
ワンポイント・英作ハイク
英語ハイクの鑑賞

先日アメリカ、ニューヨーク在住のロバータ・ベアリーさんより表紙に銀の鎖をソフトフォーカスで撮った写真をあしらったお洒落な句集を頂きました。この句集の原稿は2006年のスナップショットプレス句集稿コンテストの最優秀賞を受賞しています。『つけていない首飾りThe Unworn Necklace』(Snapshot Press, UK, ISBN978-1-903543-22-1)より三句ほどご紹介しましょう。

on my finger
the firefly puts out
its light            Roberta Beary

私の指で その蛍が消す それの光を 
指の上のほうたるほのと火をけしぬ    ロバータ・ベアリー

とうとう今年は蛍を一度も観ずに夏が過ぎてしまいました。蛍がとまっている指先に目を凝らすと、今光っていた蛍がすぅーっと消えていく瞬間。蛍の光は急にぷつんと切れる感じではなくて消え入るような感じだったと思うのです。それだけを詠っていて、蛍の棲む夏の闇を引き寄せています。離婚、出会い、家族のこととベアリーさんに起こる出来事をその時々の季節感に載せて、本当に簡潔な言葉で表現しています。たった七語で綴られた句が深い広がりをもって読者に迫ってきます。

hating him
between bites
of unripe plums

彼を憎む 一齧り、一齧りする間に 熟していないプラムを
青プラム齧つては彼憎みけり

酸味のきついまだ熟していないプラムを齧りながら、その間にも彼を憎むという句です。噛みしめるほどに越し方の苦味酸味が口中に広がってくるのでしょう。二人が経てきた時間の重みまでも感じさせます。

snowmelt
the logs
he left behind

雪解け 薪 彼が残していった
雪解けや彼の残せし薪の束

雪解けとい言葉に、厳しい冬の終わりと作者の人生のある章の終わり、それが終わった安堵のようなものを感じます。冬の間燃やしていた薪、その薪を使い切らずに彼は残して行ったというのです。暖炉の前で二人で過ごすはずの時間分用意されていたであろう薪が、残ってしまったということは、二人で過ごさなかった時間の長さ、そして、残して行ったというのは彼の決別の意思表示でもあるのでしょう。六語のハイクです。


20007年8月のハイクノースアメリカ大会に参加した折のロバータ・ベアリーさんです。

20007年8月のハイクノースアメリカ大会に参加した折のロバータ・ベアリーさんです。
      (写真撮影 デイブ・ルッソ)

ワンポイント・俳句の英訳

米国、ウエストミシガン大学で教鞭をとっておられるジェフリー・アングルス先生と高橋睦郎さんの『稽古』と『遊行』から俳句を訳し始めました。アングルス先生は日本文学に精通されていてありがたいことに日本語で通信ができるのです。学ぶことの多い翻訳作業となりました。『稽古』(高橋睦郎著、善財窟、昭和62年)より一句。

ぶりきの蝉へこへこと秋立ちにけり        高橋睦郎


a tin-plated cicada
rings and pings
as autumn sets in                   Takahashi Mutsuo

立秋を詠んだ句ですが、8月の夏空の下、蝉も盛んに鳴いている頃です。おもちゃの「ぶりきの蝉」が、抑えればその薄さゆえにへこと凹みそして戻る、その繰り返しに秋が立ちましたというのでしょうか。英訳では「へこへこと」をどのように訳すかが問題でした。

睦郎さんにお訊ねしましたら、昔の表記では「ぺこぺこ」は「へこへこ」と書いたのだそうです。ここではだから「ぺこぺこ」と解してくださって結構ですとのこと。確かに広辞苑に出ていました。ブリキの蝉をへこますと弾力で戻るので、繰り返してやっていますと「ぺこぺこ」と音がする、その音のことだそうです。なるほど、では英語に擬態語のぺこぺこはと探してみますが見つかりません。音ということが分かったので、ringing, ringing、 ringing and pingingとやっているうちに「rings and pings」で落ち着いたというわけです。「秋が立つ」は文字通りに立たせるのではなく季節が始まる時の表現、「set in」を使いました。

手の中の小さなブリキの蝉が立てるぺこぺこという音が聞こえてくるのは、やはり秋が立った証拠なのですね。秋は耳から・・・。

ワンポイント・英作ハイク

11月10日より18日まで、国際交流基金の派遣で英語で俳句の講演にインドへ参ります。コルカタとデリーで日本の俳句の構造・発生の歴史・作品鑑賞を含む講演と実作と句会のワークショップをいたします。選択肢が多くなると選べなくなるというので、3つほど、季語となるテーマを決めようと思っています。そのうちの一つが「月」です。インドの方たちがどのように月を詠まれるのか興味津津です。 私もインドの大地から見上げる月を思いながら、ちょいとお稽古に一句ひねってみました。実際に行ってから出来る句と比較しても面白いかなと思いまして。

the half moon-
I dust off the sand
from my sandals                     Emiko

インドには、なんとなく半月が似合うような気がしました。インドのアンジェリー・デオドーさんに伺いましたらデリーだったら、砂ではなくて泥でしょうね、と言われました。

また、ムガール帝国の遺産のミナレット(イスラム礼拝堂の光塔)がそびえているデリーなら、こんな句ができるかなと。


ハイク:宮下惠美子、ヒンズー語訳:アンジェリー・デオドー

ハイク:宮下惠美子、ヒンズー語訳:アンジェリー・デオドー
写真: http://www.tajmahaltourism.com/taj-mahal-by-moonlight.html


月の光と風がミナレットから吹いてくる、遠くに犬の吼える声。 下にはヒンズー語訳がつきました。
二句とも旅行者の視点の想像ハイクでしたが、次回には実際に体験したインドでの俳句をご紹介できればと思います。ではご健吟を!


筆者紹介
 
 
宮下惠美子
Miyashita Emiko
自称英語ハイクのフィールドワーカー

・国際俳句交流協会評議委員、「HI」編集委員
・俳人協会会員
・米国俳句協会会員
・カナダ俳句協会会員
・「天為」同人

英語関連の著書・共訳著書
・「Love Haiku: Masajo Suzuki's Lifetime of Love」
・「Einstein's Century: Akito Arima's Haiku」
・「Tsuru:Yoshino Yoshiko's Haiku」
・「The New Pond: An Anthology of English-language Haiku」
・「Haiku」
・「Wagashi」
・「Noh」
・「唐招提寺鑑真和上と盧舎那仏に捧げる 献華写真・献句」等
・「Santōka」
主なフィールドワーク地
アメリカ、カナダ、イギリス、東京・神奈川