英作ハイク -入門-

お知らせ





英作ハイク - 入門編 -

地球温暖化の折、桜の開花には間に合うだろうかと思いつつ雪のカナダから帰国したのがちょうど東京の開花宣言の日となりました。3月5日に成田を発ってトロント経由でニューファンドランド島のセントジョーンズに飛び、今年20周年を迎える「March Hare(三月兎)」詩と音楽の祭典に参加してきました。

祭典は2月23日にトロントで既に始まっており、一行はアイルランドでも公演。私は3月7日のエリザベス女王の代理という役職の館へ出向いての謁見・レセプションより参加しまして、その夜はジョージストリートのバーでの朗読。翌日は車で3時間半ほど移動し、昔はヨーロッパへ向かう飛行機の最東端の給油基地だったという厳寒のガンダーの街では17人の詩人、小説家、音楽家らとマイクを共有し『山頭火』から原句と英訳を読みました。

島の西海岸にある「三月兎」の発祥の地コーナーブルック市のコロンビアホールで行われた祭典のハイライトとも言うべき朗読と演奏の会へは約350人の聴衆が集まり兎のスープが振舞われました。カナダの2006年の桂冠詩人ジョン・ステッフラー氏、セントジョーンズの桂冠詩人アグネス・ウォルチ氏、ヴィクトリア大学で教鞭をとる詩人のローナ・クロジエー氏、元カナダハイク協会会長のニック・エイヴィス氏、名古屋万博にはギターを持って来日したパメラ・モーガン氏ら12人とマイクを共有したのですが、ここでマイクを預かるというのは大変名誉なことなのです!しっかりと着物姿で朗読をしてまいりました。朗読の後に、ジョン・ステッフラー氏より「雨だれの音も年とつた 山頭火」の句をずっと忘れないでしょうと言われました。心に残る句を一句でも聴衆に伝えることができれば朗読は大成功です。

連日マイナス10度から20度の寒さの中で熱い祭典が繰り広げられ、深夜まで音楽家たちが奏でるギターとアコーデオン、バイオリンに酔いしれつつ殆ど眠らない5日間を過ごしました。ハイクも俳人も祭典の風変わりなお客様としてではなく、その一部として受け入れられていることを嬉しく感じて参りました。

20周年を記念する『ザ・マーチヘアー アンソロジー』(BREAKWATER BOOKS LTD. www.breakwaterbooks.com )が出版されました。295頁のアンソロジーにはニック・エイヴィス氏のハイクの他に、92頁目には私のハイクも5句ほど載っています。

3月12日早朝には、時折の吹雪の中を「三月兎」の実行委員長であるレックス・ブラウン氏の車で6時5分の飛行機に間に合うようにディアレーク空港まで送っていただき、モントリオール経由でケベックへ飛び、以前ご紹介しましたアビゲール・フリードマン氏のところへホームステイいたしました。なんとご自宅はセント・ローレンス川を見下ろすアメリカ領事館の2階3階部分。暖炉と四本柱の大きなベッドのある客用寝室におそるおそる滞在し、アビゲールさんが主宰するフランス語の句会にも招かれました。黒田杏子先生の教えを守る句会では3句を投句、清記、選、被講と全く日本と同じプロセスで進行し、紅茶とバナナケーキで中休み、この日は後半に私の俳句の朗読をすこし聴いていただきました。古い石造りの図書館の読書室、革表紙の本の並ぶ棚に囲まれての句会場では、西欧文化の中に何の違和感も無く取り込まれている「俳句」を見届けたような気持ちになりました。誰もが楽しんでハイクをやっている様子が見て取れました。

その後、アビゲールさんとモントリオールの第一回禅ポエトリーフェスティバルに参加しまして、「インターナショナルハイク・英語ハイク」という演題で、カナダの俳人テリー・カーター氏、アンジェラ・ルイック氏、そしてアビゲールさんたちと一緒に朗読。外交官であるアビゲールさんはフランス語、ポルトガル語、英語と、その句を得た土地の言語を駆使してハイクを作ることが出来るのでした。ハイクは二回繰り返して朗読されていましたが、英訳の『山頭火』は片方の耳から入りもう片方から出てゆく風のようなイメージで朗読をしたかったので一回ずつ原句と英訳を読みました。

朗読が終わると聴衆からの質問を受け、俳句の英訳をする際の留意点など訊かれましたので、原句に忠実に伝えること且つ訳した言語でもちゃんと詩として機能するよう心がけていることなどをお話しました。どこの朗読でも日本語の響きが美しいと言われました。母音の響きが自然界の音の響きに似ており、そういう母音の響きを連ねた言語であるから耳に心地良いのでしょうと答えておきましたが、その連ね方を選択したのは山頭火でありますので、やはり詩人・俳人の耳は優れているのでしょうね。

左からジョイス氏、クロージエ氏、私。ニューファンドランド島の凍りついた湾を背景に。

左からジョイス氏、クロージエ氏、私。ニューファンドランド島の凍りついた湾を背景に。

その他のご報告やお知らせ:

*一月にガブリエル・ローゼンストック氏よりアイリッシュハイクソサエティーのホームページのお知らせを頂きました。ご覧ください:http://www.freewebs.com/irishhaiku/

*2月16日には日本英語交流連盟主催の第四回「英語でハイク」の英語でのワークショップが(社)日本記者クラブ大会議室で行われました。事前投句をしていただいた句を材料に一緒にハイクのクラフト(作句法)を考えるワークショップ。マイケル・D・ウェルチさんらにお知恵を拝借して準備を整え、当日は、無記名のまま一句を鑑賞していただき意見交換をしました後に作者より作句の背景を伺い、それではこういう表現もありますねといった具合に提案するという進め方をしました。感動の焦点を報告・説明するのではなく、伝えたい感動を具体的な物(五感で解凍できるイメージ)を取り合わせることによって示すという方法を練習しました。季感の感度を高めることの他にも、一つ一つの言葉によって喚起される<五感のあらゆる感覚>に敏感になることも大切であることを学びました。

* 4月4日には東京・銀座の故鈴木真砂女さんの「卯波」にてカリフォルニアの俳人たが集まります。松山で開催のパシフィックリムハイク大会へ参加するパトリシア・マクミラーさん、ジェリー・ボールさんらをお迎えして角谷昌子氏、仙田洋子氏を交えての英語の連句の会をいたしました。

左からジョイス氏、クロージエ氏、私。ニューファンドランド島の凍りついた湾を背景に。

*俳文化誌『游星』(関忠雄代表)が次号37号でその20年間の歴史を閉じようとしています。そのユニークな游星集談会の講演者に名を連ねたのは、昭和63年の第3回「俳諧と俳画」(尾形仂)、平成2年第6回「日本の文学・芭蕉との出会い」(ロベルト・オエスト)、平成8年第16回「俳句国際化の黎明のころ」(内田園生)、平成9年「自然と芸術における対称性 日本と西欧の違い」(有馬朗人)、平成10年第22回「外国人の俳句の見方」(佐藤和夫)、平成12年「切字論」(川本皓嗣)、平成13年第27回「半世紀を経た英語ハイク」(星野恒彦)、平成15年第32回「季題と年中行事−俳諧の時間意識について」(ハルオ・シラネ)、同33回「俳句が中国から学んだこと・中国が俳句から学んだこと」(林岫)等など。貴重なバックナンバーは俳句文学館で閲覧することができます。

英語ハイクの鑑賞
ワンポイント・俳句の英訳
ワンポイント・英作ハイク
英語ハイクの鑑賞

ハイク・川柳・短歌のための英国の出版社スナップショットプレスを営む俳人,ジョン・バーロー氏の最新句集Waiting for the Seventh Wave (『七番目の波を待って』)Snapshot Press,2006, www.snapshotpress.co.ukを頂きました。タイトルポエムとなった句は:

evening surf. . .
sandpipers waiting
for the seventh wave         John Barlow

夕暮れの波・・・/ 鴫が待っている / 七番目の波を

七番目の波は、それの前の六つの波よりも大きいのだそうです。夕暮れの砂浜、波打ち際に点々と海を向いて鴫が立っている、まるで第七番目の大波を待つが如くに・・・、という解釈でよいのだろうと思います。各行に繰り返されるS音が、打ち寄せる波のように聞こえてきます。また二行目と三行目のW音も引いていく波の音のように、S音ほどは強くなく、しかし余韻をもって響いています。見事です。もう一句ご紹介しましょう。

spring breeze—
different times
on the dandelion clocks        John Barlow

春風 / 異なる時を告げ / 蒲公英の絮

蒲公英の綿毛の丸い頭を何故か「蒲公英の時計」というのだそうです。ふーっと吹いて「今、何時?」と訊くのだそうです。そんな遊びがあるそうです。野原一面に咲いている蒲公英。そのうちの幾つかはすでに春風に種を飛ばされて、綿毛も半分になっていたり、三分の一、もしかしたら丸坊主。そんな風景を描いた句です。春たけなわの頃でしょうね。

ペーパーバックの80ページの句集の表紙には波打ち際の鴫の写真。一頁に一句というとても贅沢な余白の使い方をしている句集です。

ワンポイント・俳句の英訳

芭蕉の句に「山も庭も動き入るゝや夏座敷」があります。解釈としましては障子から葭戸に替わりすっかり風通しのよくなった夏仕様の座敷には山も庭も入ってくるようだという涼しさを詠んでいる句です。これを英訳してみましょう。

「夏座敷」を和英辞書で引きますと熟語としては載っておらず、「座敷」が「a Japanese-style [tatami] room; a drawing [reception] room; a parlor」とあります。どれも一句の中に埋め込むにはぴんと来ない表現です。座敷ですからお客様をお迎えする床の間のある部屋、庭を望む客間です。結局、「guest room」としました。

問題は文字には表れていない涼味をどう表現するかでした。「山も庭も動いて夏座敷の中に入っていく」では謎めいてしまいます。座敷の中へ入っていく実体を涼風であると解釈しますと、風通しのよい客間に山も庭の涼味も入ってくるということになりすっきりします。「airy」の一語は補足ですが、長い注釈をつけて障子や襖を葭戸に替えて風通しをよくした夏仕様の座敷と説明をしなくても、涼風が感じられる英訳になったのではないだろうかと思います。「summer」を入れずとも夏の季感が出せました。皆様でしたらどのような工夫をされるのでしょう?

 
山も庭もうごき入るゝや夏座敷       芭蕉

mountain and garden
also moving into
the airy guest room          Bashō
                     (英訳:宮下&Michael D. Welch)
ワンポイント・英作ハイク

ケベック市のセント・ローレンス川を望む米国領事館のどの窓からも流氷の大河が見えました。潮の満ち引きの影響で流氷は川を上ったり下ったりするのです。不思議な光景でした。フェリーに乗って実際に流氷の中を進んでみますと氷と船のぶつかるゴツーンゴツーンという深い響きと一つ一つの流氷の大きさ厚さに圧倒されました。中には空気を含まないのか全く透明な矩形もあり光を反射して輝いています。また積もった雪のまま割れて流れている矩形もあり、さまざまな質感の氷の塊が浮かんでいました。寒さで鼻を真っ赤にしながらのフェリーの旅は往復で5ドルちょっとのお楽しみでした。潮の満ち引きによって流氷の向きが変わるということを言いたかったのですが難しく、領事館の窓々から流氷が見えているという感動にまとめてみました。

from all the windows
 of the Consulate
  floating ice               Emiko

川沿いにある雪に覆われた公園へ散歩に連れて行って貰いました。雪道の歩道の他にクロスカントリーのスキーのための道がありました。不用意にスキートラックに足跡をつけながら歩いていましたら、「スキーヤーが嫌がるので歩道を歩いた方がいいわよ。」と注意してもらいました。雪国ならではの心遣いなのですね。広い公園なので歩いている内に私の背もだんだん猫背に。革製の外套が重いのであります。実際には猫背は「私」なのですが、ここでは「彼女」としてみました。自分の猫背は見えませんからね。この句はケベックのフランス語の句会に出して2点頂きました。

carefully avoiding
the ski tracks
her stooped shoulders              Emiko

最後に、以前ご紹介しましたアビゲール・フリードマンさんの著書『The Haiku Apprentice(俳句見習い)』がKiriyama Prize http://www.kiriyamaprize.org/index.shtmlの選外佳作となりました。ご報告まで。


筆者紹介
 
 
宮下惠美子
Miyashita Emiko
自称英語ハイクのフィールドワーカー

・国際俳句交流協会評議委員、「HI」編集委員
・俳人協会会員
・米国俳句協会会員
・カナダ俳句協会会員
・「天為」同人
・「游星」会員

英語関連の著書・共訳著書
・「Love Haiku: Masajo Suzuki's Lifetime of Love」
・「Einstein's Century: Akito Arima's Haiku」
・「Tsuru:Yoshino Yoshiko's Haiku」
・「The New Pond: An Anthology of English-language Haiku」
・「Haiku」
・「Wagashi」
・「Noh」
・「唐招提寺鑑真和上と盧舎那仏に捧げる 献華写真・献句」等
・「Santōka」
主なフィールドワーク地
アメリカ、カナダ、イギリス、東京・神奈川