英作ハイク -入門-

お知らせ





英作ハイク - 入門編 -
帰国してすぐに菊切という蒸篭蕎麦を麻布十番の更科堀井で頂きました。菊の花が練りこんであるお蕎麦だそうで白い堀井更科の蕎麦がほのかに黄味を帯びとても綺麗でした。お酒を嗜まないので菊酒は無理ですが、これで私も寿命が延びたように思いました。あれから一月、新蕎麦の出回るころとなり、先日は「新蕎麦」という張り紙につられて新橋のお蕎麦屋さんに入ってしまいました。
9月28日から10月1日に行われましたアシロマーリトリートで私の出番となった句会では、日本の俳句に見られる頭韻を紹介するつもりで、『s』の音を入れた句をあらかじめ投句してもらうことにしたのですが、例えば、sun, surf, sand, shine, Septemberなどとメールに書いたものですから、一句にこれらの「s」で始まる単語を三つ読み込むようにと伝わってしまい投句者は大変苦労したと聞きました。「s」音の句を入れて一人二句の応募作品を印刷して配り5句選、うち一句は特選とするという互選形式の句会を行いました。高得点句から、選んだ人の弁、私のコメント、さらには名乗りをしていただき作品の出来上がる背景など作者側からのコメントも聞きながら進めました。兼題を用いながら各自の生活圏を描き出しているのは、吟行を旨とするこのグループならではの実体験に基づく句作りの成果でしょう。一つ面白い発見をしました。三つ「s」で始まる単語を入れた句にはそれ以外にも頻繁に「s」音が繰り返されていたということです、また似たような「th」の音も含めますと一句平均で4.7回ほど「s」音が登場するのです。一番多かったのは「s」音だけで9回も出てきました!
 この句会の最高点句は「s」音が5回登場するこの句でした。
wilted sunflowers−
sweeping summer out the door
into a sand pile                 Betty Arnold

しおれた向日葵の花
ドアの外へ夏を掃きだす
砂場へと                     ベティー・アーノルド
三回使われている「s」音がさらに「s」音を引き寄せているという面白い結果となりました。「s」音を繰り返すことで作り出されるパターンが心地良さを生み出しているようです。

余談になりますが、日本語で書かれた海外詠や滞在詠というジャンルは英作ハイクとは別のところで扱うべきなのでしょうけれど、最近読んだ明隅礼子さんの第一句集『星槎』(ふらんす堂、2006年)に収められた海外詠・滞在詠にこのジャンルの確かな進化を見る思いが致しましたのでご紹介いたします。英語ハイクを作る心もまた同じだと思うからです。「天為」同人である明隅礼子さんは仕事の関係でアジア・アフリカの国々を多く訪れ、マレーシアには長期赴任をされています。

椰子の実に斧振り下ろす大暑かな
   出水して地雷も流れゆきしとか
蓮の花舞踏の稽古終りけり
   結い髪をほぐして白き蚊帳に入る
白蚊帳のなかは真白き波の音
   はらはらと麒麟は青葉食べこぼし
断食月の明けてスコールなほ激し 
   暖房のなき家コーランあるばかり
スコールのあと運ばるる聖樹かな
   大男橇を止めたる市場かな                明隅礼子


ワンポイント・俳句の英訳
ワンポイント・英作ハイク
応用編:英語でレンク(連句)
ワンポイント・俳句の英訳

英訳を担当しましたピエブックス社の『山頭火』からの一句です。

 
ありがたいお金さみしくいただく        種田山頭火

the welcome money
sadly I accept                 Santōka (英訳:宮下&Paul Watsky)
この句は「ありがたいお金」と「さみしくいただく」という二つの部分から成っています。 「ありがたいお金」とは山頭火にとってどんなお金だったのか、また「さみしくいただく」という時に山頭火はどんな思いを持っていたのかを考えてみます。辞書を引くと「ありがたい」はthankful; gratefulとありますが、どうもしっくりきません。単に感謝するという意味合いではこの句の場合には弱いと思いました。そんな時に共訳のポールさんがwelcomeという提案をしました。まさに「待っていたお金、貰ったら嬉しいお金」という率直な気持ちが表れている形容詞です。また「さみしく」というのは、山頭火がお金の施しを受ける際の複雑な心境を凝縮した一語です。率直に述べられた「さみしい」を生かすようにそのままsadlyとしました。thankfulとsadly、あるいはgratefulとsadlyでは、welcome を用いた時のような効果が出ないと思いますが、いかがでしょうか? このように俳句を英訳する場合は俳句を何度も声に出して読み、逐語訳という方法をとった場合には見逃してしまうような一句の雰囲気までを訳すことができれば満足かなと思います。

不二さん、2005年HNA大会にて

お互いが納得するまでメールのやり取りをして山頭火を一緒に訳したポールさんの招待で9月26日サンフランシスコジャイアンツの試合を観戦してきました。勝ち試合でした!

ワンポイント・英作ハイク
アメリカハイク協会会員の2006年度版合同句集が出ました。今年のタイトルは「fish in love (恋の魚)」。なんと私の句の一行がタイトルになってしまいました。
I cover the goldfish bowl
with a hotel shower cap
fish in love                    Emiko Miyashita

私は金魚鉢に
ホテルのシャワーキャップを被せる
恋の魚
小さな金魚鉢に飼っている2匹のアカヒレ(中国原産の目高)が追いかけっこをしては勢い余って外へ飛び出すのでホテルの透明なビニールにゴムの付いただけのシンプルなシャワーキャップを被せたのです。二匹を「恋の猫」ならぬ「恋の魚」と見立てたのがこの句の眼目。追いかけていたのは大きい方の張さん、追いかけられていたのは可愛い方の陳さんでした。そのままを句に仕立てました。一行目二行目はそれだけでは散文ですが、三行目の「fish in love」を置いたことでハイクとなりました。編集のロバータ・ブーリーさんとエレン・コンプトンさんによると「この句にはただただ笑いがこみ上げてきて、とても気にいったので採用した。」ということでした。ありがたいことです。ちなみに、「cats in love 猫の恋」は既に輸出済みで英語ハイクのあちこちで目にいたします。
応用編:英語でレンク(連句)
英語で歌仙を巻くというのは、どこのハイク大会でも普通に行われていることで、俳文、俳画、連句も合わせてハイク作家の嗜みとするようです。ここにご紹介するのは9月のアシロマー研修で巻いた「青の兆し」というジェリー・ボール氏の捌きによるKasen歌仙です。どこはどの季節でどこは無季でというチャートに従って、三行、二行の句を交互に付けていきます。恋句や月と花の定座もあって、英語レンクでもちゃんと花の座には桜を持ってきます。各自が短冊に見立てたメモ用紙に書いた句を捌きに提出しますと、捌きは既に使われた表現に近すぎないか、流れはどうかなど気を配り、時には多数決を取りながら付けていきます。予定表では4時間45分の時間を取ってありましたがこれはそれより少し早く完成しました。
お楽しみいただければ幸いです。
A Hint of Blue

Renku led by Jerry Ball at the Yuki Teikei Haiku Retreat at Asilomar
September 30, 2006

early morning−
above the foggy dunes
a hint of blue                             ah

早朝/霧のかかった砂丘の上に/青色の兆し

migrating birds
the artist picks up her brush                   jb

渡り鳥/画家は絵筆を選び取り

bonfire ring
a raccoon investigates
hot chocolate                           jhh

焚火の輪/狸がココアを/調査中

with tenderness
he calls her “sergeant”                     dlc

やさしさをこめて/彼は彼女を「軍曹」と呼ぶ

rain stopped
the sound of mowers
all day                                 tm

雨が上がった/終日/芝刈り機の音

phlox blooms bring a warm smile
both brighten my dinner table                 bp

フロックスの花が温かい微笑みをもたらす
両方が私の晩餐のテーブルを明るくする

BIG mistake!
the teacher assumed everyone
was a Democrat                          dlc

大きな過ち!/先生は全員が民主党員だと/思い込んでいた

last night’s kiss
wasn’t hot enough                        tm

昨夜のキスは/物足りなかったわ

his third cup of tea
his finger just brushes her hand
when he accepts it                       jb

彼の三杯目のお茶/それを受け取るとき
彼の指は彼女の手に軽く触れて

every time we hug
his hearing aids buzz                       ah

私たちが抱き合う度に/彼の補聴器がブンブン鳴る

he quietly asks
if her head will be shaved
at the ordination                         dlc

彼はそっと尋ねる/彼女の頭が得度式で/剃られるのかと

the paratroopers begin
secret maneuvers                        jb

落下傘兵たちが/秘密の機動演習を始める

winter moon−
a line of Tomten’s footprints
in the snow                             jhh

冬の月/トムテンの足跡の筋が/雪の上

(Viktor Rydbergの詩「The Tomten」よりイラスト:Jenny Nystrom)
http://members.tripod.com/~auntida/tomten.html

stack of blankets
at the top of the stairs                     jb

毛布の山
階段の最上段に

the Chopin etude
turned down−
listen to the wind                         tm

ショパンのエチュードの/音量をさげて/風を聴く

newly published poem
a longing for my grandma                     dlc

新しく出版された詩/祖母への慕情

standing room only
on the train to Yoshino−
cherry blossoms                         jhh

吉野へ向かう電車は/立見席ばかり/桜の花

sea anemone in the tank
a fluorescent light keeps blinking                em

水槽のイソギンチャク/蛍光灯の光が瞬き続ける

toddler daughter
in the bonnet I made her
Easter memories                          jhh

よちよち歩きの娘/私が作ったボンネットをかぶり/復活祭の思い出

my nail stylist carefully
paints bling-bling stars                       em

私のネールアーティストが丁寧に/ぎんぎらぎんの星を描く

young philosophers
with their own distinctions
in a coffee shop                           jb

若い哲学者たち/それぞれの特徴をもって/コーヒーショップの中に

primordial woods
stretch up high                           tm

原始林/上へ高く伸びる

two rattlesnakes
fighting each other
at the roadside                           ah

二匹のガラガラヘビが/戦っている/道端で

how do you sign
“swimming pool”?                        ah

どうやって手話でいうの、/「プール」って?

Cl is chlorine
potassium is K
Fe is iron, right?                          em

Clは塩素だよね、/カリウムはK 、/Feは鉄だったよね?

again, after 27 years
the word “intimacy” changes                  dlc

再び、27年後に/「親しいこと」っていう言葉の意味が変わる

she enters the room
his voice trembles
his face turns red                         jb

彼女は部屋に入る/彼の声が震える/彼の顔が赤くなる

ceaselessly eating M&M’s−
magazine crossword                       em

休みなくM&Mチョコレートを食べ続け―/雑誌のクロスワードパズル

my therapist asks
if I believe in karma−
rising moon                             dlc

私のセラピストが聞く/カルマ(業)を信じますかと―/月の出

autumn drought, when streams
go down to the sea in drips                  bp

秋旱、川が/海へ滴り落ちるとき

just after harvest
huge pale heaps of wheat
in the open air                           jhh

収穫が終わると/小麦の大きな淡い山々が/野外に

antique animals up and down
on the merry-go-round                     ah

古びた動物たちが上下する/メリーゴーラウンドに

on the burnished vase
a phrase of an ode
as if from Poseidon’s mouth                  em

黒光りする花瓶に/オードの一篇/ポセイドンの口から漏れたように

the fashion photographer
searches for the correct angle                 ah

ファッションカメラマンが/ぴったりのアングルを探す

walking over the bridge
we discuss our heritage−
cherry blossoms                           dlc

橋の上を歩きながら/私たちの境遇を語りあう―/桜の花

notes of a distant flute
−spring mountain                         jhh

遠くの笛の音/―春の山

jb Jerry Ball            ジェリー・ボール(捌き)
dlc Donnalynn Chase       ドナリン・チェイス
ah Anne Homan          アン・ホーマン
jhh June Hopper Hymas     ジューン・ホッパー・ハイマス
tm Tei Matsushita Scott     テイ・マツシタ・スコット
em Emiko Miyashita       宮下惠美子
bp Bill Peckham          ビル・ペッカム


筆者紹介
 
 
宮下惠美子
Miyashita Emiko
自称英語ハイクのフィールドワーカー

・国際俳句交流協会評議委員、「HI」編集委員
・俳人協会会員
・米国俳句協会会員
・カナダ俳句協会会員
・「天為」同人
・「游星」会員

英語関連の著書・共訳著書
・「Love Haiku: Masajo Suzuki's Lifetime of Love」
・「Einstein's Century: Akito Arima's Haiku」
・「Tsuru:Yoshino Yoshiko's Haiku」
・「The New Pond: An Anthology of English-language Haiku」
・「Haiku」
・「Wagashi」
・「Noh」
・「唐招提寺鑑真和上と盧舎那仏に捧げる 献華写真・献句」等
・「Santōka」
主なフィールドワーク地
アメリカ、カナダ、イギリス、東京・神奈川