英作ハイク -入門-

お知らせ





英作ハイク - 入門編 -
お待たせいたしました。第二回目をお届けいたします。第一回を書いてからあれこれありましたのでかいつまんでご報告。

7月にはBBC放送の取材を受けました。山がちであるために平野部に人口が密集している国土に発達してきた「小さい」の文化の一つとしての俳句を紹介するインタビューと句会の取材でした。(2006年放映予定とのこと)
8月には私事ながらカナダのKing’s Road Pressの Hexagram (八卦)シリーズの17番目として英語句集『マイムの直立不動』を出版していただきました。

9月は15日から18日までをカリフォルニア州のYuki Teikei Haiku Society(有季定型俳句協会)のアシロマー研修。21日から25日まではワシントン州のシアトルから北へフェリーで行ったところにあるポートタウンゼントでのHaiku North America(北米ハイク)大会と二つのハイク大会参加のため渡米。今年のアシロマー研修は、故徳富潔・喜代子夫妻が会を創立して丁度30年目に当たる記念大会でした。 ハイクノースアメリカ大会は1991年より隔年に行われている大きなハイク大会です。今年も93名の俳人や編集者、学者など各方面からの参加者が活発にハイクや俳句を論じ朗読し鑑賞をいたしました。戦後すぐに多くの俳句を英語で紹介しましたR.H.ブライス博士の長女の晴海氏のインタビューなども興味深く聴いてきました。今回の体験で感じたアメリカのハイク事情を一言で報告するとすれば、自分たちのハイクを英語詩の中に位置づけ、英語詩の技法を積極的にハイクにも応用していこうという姿勢が顕著になったことと、英語詩の中でのハイクの二流詩扱いを改善すべく、有名な詩人にもハイクを書いてもらうという方法でハイクの市民権を確保していこうとする動きを歓迎していることでした。
ハイクノースアメリカ大会にて。右端がルースさん。
(前のアメリカ桂冠詩人のビリー・コリンズなどがその例ですが、詳しくは、HIA15周年記念大会でのリー・ガーガ氏の講演をお読みください。)またハイクの朗読が、一度だけというのも新鮮でした。今回は3年ぶりのアメリカのハイク大会参加でしたが3年前は必ずといっていいほど一句を二回繰り返し読んでいました。今回は英語が母国語ではない私の耳は子象のダンボの耳のようになっていました。これも一句の中の音を大切にしている証拠なのでしょうかと思ってきました。

10月は日本英語交流連盟主催のワークショップ「英語でハイク」の二回目がありまして出句をして選をするという句会を体験していただきました。次回は4月ですのでご興味のある方は日本英語交流連盟までお問い合わせください。
11月は当協会の15周年記念大会。というわけですっかり遅れてしまいました。ごめんなさい。では気を引き締めてまいります!

英語ハイクの鑑賞
ワンポイント・俳句の英訳
ワンポイント・英作ハイク

会員の皆様からのそれぞれのコーナーへの投句もお待ちしております。
英語ハイクの鑑賞
ハイクノースアメリカ大会でのルース・ヤーローさんの朗読の中にあった一句が心に残りました。英語ハイクではこういうことも言えるんだと感心すると同時に、母乳で子育てをしたことのある読者には大変懐かしく共感を呼ぶ句であると思いました。
warm rain before dawn:
my milk flows into her
unseen                 Ruth Yarrow

夜明け前の暖かい雨:
私の母乳が彼女の中に注がれていく
見えないままに

暁の雨あたたかく乳飲み子へ見えざるままに注ぐ吾が乳
なかなか日本語ではうまく5−7−5の定型に収まらなくて短歌のようになってしまいました。英語ハイクが含み得る情報量の多さですね。見えないところで母乳が乳飲み子へ注がれていく、あの胸全体に感じるくっくっという赤ん坊が乳を吸うときのリズミカルな力が甦ります。母親の視点で捉えられているので、「注がれていく」という表現になっています。3行目は「見えないままに」とたった一語ですが、これは受胎の瞬間も見えませんし、妊娠中も胎児の成長は目には見えてはいないのです。母と子と、いつも一緒にあって、実は母からは見えていない絆。そのようなことを思いました。
形としては一行目の終わりにコロンが打ってあり、切れがあることがわかります。英語ハイクには「や」「かな」「けり」のような切れ字はありませんけど改行やダッシュ、またコロンを使って切れていますという意思表示をすることができます。英語ハイクでも二つのことがらを並列することで、二物衝撃と同じ効果をねらいますので、このような工夫をしているのですね。「夜明け前の暖かい雨」によって、日本の春雨のような静かな雨を思いますがワシントン州シアトル在住のルースさんのところではどんな雨が降るのでしょうか。その雨が春になって萌えだしてきたものを育てていく雨であり、母乳もまた命を育てていくもの。夜明けの雨は目を凝らしても見えませんし、母乳もまた目に触れることなく母から子へと注がれていくのです。この句は、1981年にカナダの『Cicada(蝉)』に発表され、コア・ヴァンデンフーヴェル氏の『The Haiku Anthology』1986年版そして手元の1999年版にも収録されていました。ルース・ヤーローさんは1937年カリフォルニアの生まれ、現在はワシントン州シアトル在住。9月にお会いしたときには山登りの話を沢山してくださいました。古い貨車を改造した山小屋を持っているので一緒にトレッキングをしましょうよと誘われました。
ワンポイント・俳句の英訳

限定200部のリー・ガーガ和訳句集『秋の蚊 Autumn Mosquito 』から一句ご紹介いたします。記念大会の講演者のお一人であるリー・ガーガ氏が、この日のために用意した自作12句を収めた13センチ×10.5センチの小冊子です。英語の原句、直訳、それと俳句のかたちに納めた句が載っています。翻訳は木内徹氏と仙田洋子氏と私の3人のチームで行いました。

 
forgotten for today
by the one true god
autumn mosquito                 Lee Gurga

今日は忘れられてしまっている 真に唯一の神に 秋の蚊
万能の神に忘らる秋の蚊よ
直訳の「今日は忘れられてしまっている真に唯一の神に、秋の蚊」では俳句として鑑賞を試みることが日本の俳人には難しいかもしれません。そこで5−7−5の形に置き換える作業をしたのですが、この際何が一番大事なメッセージであるのか、どれははずせてどれは残すべきか、何か補う必要はあるだろうかと考えます。Autumn mosquito (秋の蚊) はこの句集のタイトルでもありはずせませんし何といっても一番大切な要素でしょう。では the one true got(真に唯一の神) は何故大文字の神ではなく小文字の神なのか、もしかしたらこれはキリスト教の神に限らぬあらゆる宗教を超越した絶対神、真の唯一人の神という意味なのではと思い至り、「万能の神」と訳してみました。また本来ならば「忘らるる」が文法的には正しいのですが、中七を守りたいために「忘らる」としました。決してこれは皆様にお勧めする方法ではありませんので念のため。というわけで一応定型に収まる形に仕上がりました。これなら鑑賞しやすい形です。リー・ガーガ氏によりますとこれは9・11事件がなければ作らなかった句ということで俳人も社会の影響を受けながら句を作っているという例句にしているそうです。あの貿易センタービルへ突っ込んだ飛行機を秋の蚊と見立てて、万能の神でさえが防ぐことができなかったではないかということを述べているとも解釈できますね。
ワンポイント・英作ハイク

英作ハイクの第二回目のポイントは、まず一句のテーマを絞り込むことといたします。
こんな素材を用いて、こんなふうに句にしたいという明確な設計図を持っている場合は別として、漠然とハイクを作りたいなと思っても、なかなか難しいものです。感動の中心をまず見つけること。歳時記という便利なリスト季語集がないので言葉はすべて自分で探してこなければなりません。9月にアメリカへ行った時の俳句談義でこんなことを話してきました。これまでの日本からのメッセージでは、「俳句は自然を詠む短い詩であるので、英語ハイクでも自然を読み込むことが推奨される。」でした。しかし、本当に俳句は自然をテーマに詠むものなのだろうかという素朴な疑問をもつ人が出てきました。日本の俳句でも100%自然を詠んでいるかといいますと中には人事、祭事など結構人間くさいことが多く出てくるのですから、無理もありません。ではその人事、祭事がどういう風に自然の中に含まれていくのかというとそれは季節の移り変わりの目印として働くからなのです。「なるほど、じゃあ俳句というのは季節(の推移)を詠む詩なのですね。」ということになりました。日々の暮らしの中ではっとする季節感を捉えられればハイクは半分出来上がりです。それに心象を具象化してくれるようなものを配すればいいのです。先にご紹介しましたルースさんのハイクも見事に「暖かい雨」を活かしています。また読者と共有したい体験が先にあった場合には、季節のイメージや一日のある時間帯などを取り合わせることで、皮膚感覚や聴覚視覚などによる具体的なイメージの再現がしやすくなります。こういった季節のイメージや時間帯というのは作者と読者の共有体験の部分である場合が多く一句をより開かれたものに仕立ててくれるのです。

with a handful of snow
I pat the snowman
dusk−                Emiko

ひとすくひ雪たしてやる雪達磨       惠美子
この句の場合は日本語の句が先にありました。英語ではどう表現したらいいかなと思った時に、外で遊んでいて日が暮れたので家へ入る、その前に雪達磨にも一掬いの雪を足してあげるという景が浮かびました。そこで具体的にdusk (黄昏・夕暮れ)という語を3行目に持ってきてみました。日中の雪達磨を作っている過程としてではなく、また春めいてきた陽気のために解けかかった雪達磨へというのではなく、既に出来上がっていて家族の一員のような、あるいはアニメの『スノーマン』のように人格のあるように見える雪達磨にやさしく雪を足してから家に戻るという情景が見えてきませんか?このように英語ハイクでは日本語の俳句よりもかなりの情報量を入れることが可能ですから、効果的なイメージを補うなどしてより具体的に述べることが可能となります。お試しあれ!

筆者紹介
 
 
宮下惠美子
Miyashita Emiko
自称英語ハイクのフィールドワーカー

・国際俳句交流協会評議委員、「HI」編集委員
・俳人協会会員
・米国俳句協会会員
・カナダ俳句協会会員
・「天為」同人
・「游星」会員

英語関連の著書・共訳著書
・「Love Haiku: Masajo Suzuki's Lifetime of Love」
・「Einstein's Century: Akito Arima's Haiku」
・「Tsuru:Yoshino Yoshiko's Haiku」
・「The New Pond: An Anthology of English-language Haiku」
・「Haiku」
・「Wagashi」
・「Noh」
・「唐招提寺鑑真和上と盧舎那仏に捧げる 献華写真・献句」等
・「Santōka」
主なフィールドワーク地
アメリカ、カナダ、イギリス、東京・神奈川