HIA俳句大会

入選作品紹介

第21回 HIA俳句大会 入選作品

俳句部門

選者

稲畑汀子・鷹羽狩行・宮坂静生・有馬朗人・大輪靖宏・能村研三・中村和弘・永田龍太郎・加藤耕子・大高霧海
(外国語)木内徹・木村聡雄

国際俳句交流協会賞

パオ一つだけの草原馬肥ゆる
pao hitotsu / dake no sôgen /uma koyuru
茅ヶ崎市
Chigasaki
塚本 治彦
Tsukamoto Haruhiko

俳人協会賞 (The Association of Haiku Poets Award)

星月夜エジプト文字にとりけもの
hoshizukiyo/ ejiputomoji ni/ torikemono
世田谷区
Setagaya-ku
石橋 万喜子
Ishibashi Makiko

現代俳句協会賞

風死すや樹下にユリシーズ像細し
kaze shisu ya / juka ni yurishîzuzô hososhi
仙台市
Sendai
柏木 ともみ
Kashiwagi Tomomi

日本伝統俳句協会賞

水澄みて澄みて水無きごとくかな
mizu sumite /sumite mizu naki / gotoku kana
三田市
Sanda
𠮷村 玲子
Yoshimura Reiko

日本経済新聞社賞

端渓の彫りの深さを洗ひけり
tankei no / hori no fukasa o / arai keri
船橋市
Funabashi
佳田 翡翠
Yoshida Hisui

ジャパンタイムズ社賞

地獄絵の裏より出でて子蟷螂
jigokue no/ ura yori idete /kotorô
勝浦市
Katsuura
浅野 航秀
Asano Kôshû

稲畑汀子選

(特選)

一と掴みほどの大事な髪洗ふ 杉 並 区 和田 とし子
水澄みて澄みて水無きごとくかな 三田市 𠮷村 玲子

(入選)

風光る山には山の暮しあり 木更津市 中澤 一紅
八月のその一日は鶴を折る 夷隅郡 越川 悟
故郷はこのまゝでいい蝉時雨 江戸川区 石綿 久子
点滴の母の髪梳く菊日和 夷隅郡 越川 悟
とんぼうの空あるばかり無人駅 神戸市 池田 雅かず
梅咲いて一駅のびる散歩道 匝瑳市 田中 修
騙されてゐるかも知れぬソーダ水 杉並区 和田とし子
阿蘇を背に大草原の月見かな 品川区 村田 由美子
光満ち溢れて天主堂涼し 町田市 中尾茉莉子
猛暑の夜地球の未来案じをり 東久留米市 明吉 享子

鷹羽狩行選

(特選)

包丁を研ぐ手に力初鰹 勝浦市 江澤 始一

(入選)

里山をめぐりて春を惜しみけり 富士市 飯野 定子
蜜月のごとく老父母青き踏む 秋田市 和田 仁
薄れゆく記憶さながら蜃気楼 杉並区 草野 准子
祝婚のミサに紛れて夏の蝶 秋田市 和田 仁
さよならは言はず草笛吹いてをり 神戸市 池田 雅かず
八月の空の蒼さよ爆心地 夷隅郡 越川 悟
車椅子もつとも紅き薔薇に寄る 杉並区 和田 とし子
寒き夜や電灯のひも長くして 匝瑳市 田中 修
七夕や恋知り初めし子の栞 三原市 矢野 真緋子
花嫁の御近所まはり豊の秋 相模原市 宮崎 登美子

宮坂静生選

(特選)

地獄絵の裏より出でて子蟷螂 勝浦市 浅野 航秀
大洋へ挑むヨットを称へたし 函館市 大江 流

(入選)

緑満つ蜂蜜色の石の家 茅ヶ崎市 結菜 やよひ
白夜光カザフ台地の馬の群 葛飾区 白塚 告天子
子育ての鯨潮吹くマウイ島 所沢市 三好 かほる
青嵐エゴン・シーレの闇の色 世田谷区 杉﨑 邦子
イグアスは大きな器虹だらけ 杉並区 田中 あき子
満月やカムイコタンのイヨマンテ 豊島区 菊池 熱海
透明なバルトの空ようろこ雲 大網白里市 工川 ひとみ
生クリームの角立たしめよ九月来ぬ 那須町 畠山 雍
秋気澄むガウディの鐘旅情かな 中野区 高岡 由美子
母のゐる岬のはずれ秋の雲 大和市 永井 玲子

有馬朗人選

(特選)

アルプスにひびくヨーデル秋さやか 札幌市 熊谷 佳久子

(入選)

風花に聖歌溶け込むミサの朝 金沢市 高羽 昭子
瓢の笛鳴らせばおおと山の声 神戸市 池田 雅かず
パオ一つだけの草原馬肥ゆる 茅ヶ崎市 塚本 治彦
青嵐エゴン・シーレの闇の色 世田谷区 杉﨑 邦子
地獄絵の裏より出でて子蟷螂 勝浦市 浅野 航秀
百合咲くや深き入江の耶蘇の墓 渋谷区 奥乃 芳子
星月夜エジプト文字にとりけもの 世田谷区 石橋 万喜子
光満ち溢れて天主堂涼し 町田市 中尾 茉莉子
島つなぐ橋の灯ともり月見草 町田市 中尾 茉莉子
オリオンや黒潮ひびく九十九里 三原市 矢野 真緋子

大輪靖宏選

(特選)

朝掘りの筍売りの顔の土 勝浦市 江澤 愛子
端渓の彫りの深さを洗ひけり 船橋市 佳田 翡翠

(入選)

客殿を案内の僧の声涼し 船橋市 佳田 翡翠
森の風梳くや少女の洗ひ髪 湯沢市 加瀬谷 敏子
八月のその一日は鶴を折る 夷隅郡 越川  悟
能面のまなこ覗けば冬の闇 夷隅郡 越川 悟
春田風村の噂のざわざわと 夷隅郡 前田 三千代
惜春や石に戾りし風化仏 勝浦市 浅野 航秀
闇を吸ふ空の深さや春北斗 勝浦市 浅野 航秀
この沼に木の椅子似合う今朝の秋 江戸川区 石綿 久子
花嫁の御近所まはり豊の秋 相模原市 宮崎 登美子
真っ黒な仏足石を月濡らす 仙台市 柏木 ともみ

能村 研三選

(特選)

パオ一つだけの草原馬肥ゆる 茅ヶ崎市 塚本 治彦
霧霽れて蔵王百彩鎧ひけり 文京区 ヘンリー 足軽

(入選)

尼寺の筧音消ゆる村時雨 深谷市 松山 芳彦
言靈の強きを欲りて娑羅一花 福島市 小野 郁巴
山霊の漂ふ辺り滴れる 習志野市 渡辺 雅子
序破急の万感さらひ春のゆく 杉並区 和場 ゆすら
星月夜エジプト文字にとりけもの 世田谷区 石橋 万喜子
くつきりとゴビの風紋星月夜 豊中市 小畑 晴子
巻かれたるままの戸筵鮭番屋 豊中市 小畑 晴子
利休忌やいびついとしき楽茶碗 三原市 矢野 真緋子
端渓の彫りの深さを洗ひけり 船橋市 佳田 翡翠
光雲の木彫に律の調べかな 刈谷市 鈴木 帰心

中村 和弘選

(特選)

渓谷の村フィヨルドに霧の神 茅ヶ崎市 結菜 やよひ
風死すや樹下にユリシーズ像細し 仙台市 柏木ともみ

(入選)

飛行機の翼に流る春の雲 船橋市 村田 敏行
いつ見ても山蟻奔つてゐたりけり 杉並区 草野 准子
顔の無き兜の闇や梅雨に入る 夷隅郡 越川 悟
環礁に沈む機影や晩夏光 夷隅郡 越川 悟
スコールや遺跡に住まふ子供達 横浜市 大貫 邦子
まむかひに大き石臼走り蕎麦 勝浦市 江澤 愛子
この沼に木の椅子似合う今朝の秋 江戸川区 石綿 久子
秋日濃し関帝廟の太柱 横浜市 相沢 恵美子
神棚のある楽屋口初オペラ 豊中市 北橋 晁子
牛出入りしてゐる庭やマンゴ熟る 三田市 𠮷村 玲子

永田龍太郎選

(特選)

パオ一つだけの草原馬肥ゆる 茅ヶ崎市 塚本 治彦
千枚を守る青田のそよぎかな 勝浦市 江澤 愛子

(入選)

降り注ぐ雨も涙や沖縄忌 香取郡 菅谷 貞夫
聞かせたき事ありずっと墓洗ふ 富士宮市 露乃 草子
野辺山の空かたむけて天の川 渋谷区 佐藤 みちゑ
志はあれど酔生夢死の枯れ尾花 夷隅郡 越川 悟
月面に幽体離脱の午睡かな 夷隅郡 越川 悟
黒雲が黒雲を呼ぶ沖縄忌 久喜市 梅田 ひろし
冬晴れの光吸いこみ癌の肺 夷隅郡 越川 悟
銀漢や父に甘えし覚えなく 廿日市市 日比野 さき枝
抱き起こす地震の墓石や虫すだく 江東区 千葉 日出代
老いたれどきりりと結ぶ秋の帶 狭山市 白崎 艶子

加藤 耕子選

(特選)

稲滓火や子よりも若き墓碑の列 荒川区 土方 公二
「B29」知らぬ世代や終戦忌 江戸川区 石綿 久子

(入選)

硫黄島遺骨浄めし卯波かな 渋谷区 山口 務
山国の闇に贅あり天の川 秋田市 和田 仁
八月の空の蒼さよ爆心地 夷隅郡 越川 悟
パオ一つだけの草原馬肥ゆる 茅ヶ崎市 塚本 治彦
炎天に聞きし玉音はるかなり さいたま市 古郡 孝之
海の日や父の遺せし入漁権 勝浦市 江澤 始一
ロシアより船着く港雁渡し 名古屋市 清水 京子
星月夜エジプト文字にとりけもの 世田谷区 石橋 万喜子
風死すや樹下にユリシーズ像細し 仙台市 柏木 ともみ
両腕を溢る七草野の授業 七尾市 山井 きなこ

大高霧海選

(特選)

特攻の余白なき遺書秋の声 江東区 千葉 日出代

(入選)

束の間の吟遊詩人花行脚 夷隅郡 越川 悟
碧へき空くうに零戦の霊雲の峯 夷隅郡 越川 悟
蜩や叔父の日記の玉砕記 夷隅郡 越川 悟
炎天に聞きし玉音はるかなり さいたま市 古郡 孝之
一天に千の梵字や鰯雲 勝浦市 浅野 航秀
死に神も近よりがたき生身魂 夷隅郡 岡西 宣江
米の名を闇と呼びたる敗戦忌 杉並区 和田 とし子
満月やカムイコタンのイヨマンテ 豊島区 菊池 熱海
曼珠沙華無名戦士の声なき声 港区 青山 ゆり
夕凪ぐや原爆孤児とバラックと 港区 青山 ゆり

ハイク部門

選者

木内 徹 選(Selected by Toru Kiuchi)
木村 聡雄 選(Selected by Toshio Kimura)

特選 (Prize Winners)  木内 徹 選 (和訳共)

wild plum -
the ants carrying the light
petal by petal
Eduard TARA(Romania)


野生のスモモ―
蟻がその光を運ぶ
花弁一枚ずつ
エデュアルド・タラ(ルーマニア)

old pendulum clock -
caught in a spider net
grandpa’s fairy tales
Francesco de Sataba(Luxembourg)


古い振り子時計―
蜘蛛の巣だらけになっている
祖父のおとぎ話
フランセスコ・デ・サバタ(ルクセンブルグ)

入選 (Honorable Mentions)  木内 徹 選 (和訳共)

on the road
to a full recovery...
gibbous moon
Helen Buckingham(United Kingdom)


完全に修復された
道路の上にかかる
ふくらみががった半月
ヘレン・バッキンガム(イギリス)

night curfew...
even the sky
becomes starless
Ali Znaidi(Tunisia)


夜の戒厳令―
空でさえ
星が消える
アリ・ズナイディ(チュニジア)

in a pool of rainwater
a little ghetto boy floats
his paper boat
Pragya Vishnoi(India)


雨水のたまり
貧民街の男の子が浮かべる
紙の船を
ディネシュ・シハンサ・デ・シルヴァ(スリランカ)

lingering heat...
a man behind the turnstile
listening to jazz
Pragya Vishnoi(India)


酷暑―
回転式改札口に寄りかかる男
ジャズを聞いている
プラジャ・ヴィシュノイ(インド)

特選 (Prize Winners)  木村 聡雄 選 (和訳共)

wild plum -
the ants carrying the light
petal by petal
Eduard TARA(Romania)


スモモ―
花びらごとに
光を運ぶ蟻
エデュアルド・タラ (ルーマニア)

morning rain
a child's cupped hand
collecting wishes
Blessed Ayeyame(Nigeria)


朝の雨
子の手のうつわに
願い事
ブレスト・アイェヤメ(ナイジェリア)

入選 (Honorable Mentions)  木村 聡雄 選 (和訳共)

dilapidated castle
the moonlight rebuilds
the front staircase
Lyudmila Hristova(Bulgaria)


朽ちた城
月影がまた
階段を
リュドゥミラ・フリストヴァ(ブルガリア)

sunflower field
is it real that each of them
is looking at me?
Zelyko Funda(Croatia)


ひまわり畑
本当に花々は
私を見ているか
ゼリコ・フンダ(クロアチア)

desert
water bottles
riddled
Brett Brady(U.S.)


砂漠
水筒
謎のまま
ブレット・ブレイディー(アメリカ)

Unknown hero -
the weeds and grass
conquer his grave
Vasile Moldovan(Romania)


無名の英雄―
雑草が
覆い尽くす墓
ヴァジル・モルドヴァン(ルーマニア)