HIA俳句大会

入選作品紹介

第19回 HIA俳句大会 入選作品

俳句部門

選者

稲畑汀子・鷹羽狩行・宮坂静生・有馬朗人・星野恒彦・大久保白村・安西篤
永田龍太郎・今瀬剛一・大輪靖宏・加藤耕子・大高霧海
(外国語)木内徹・木村聡雄

国際俳句交流協会賞 (The Haiku International Association Award)

すがるべきものなど無くて水中花 秋田市 和田  仁
露滂沱なる草原にゲル畳む 豊中市 小畑 晴子

俳人協会賞 (The Association of Haiku Poets Award)

セルロイド・ブリキの記憶浮いて来い 杉並区 和田とし子

現代俳句協会賞 (The Modern Haiku Association Award)

空蟬や還らぬ兵の一張羅 夷隅郡 越川  悟

日本伝統俳句協会賞 (The Association of Japanese Classical Haiku Award)

子規の忌や英語嫌ひの野球好き 名古屋市 清水 京子

日本経済新聞社賞 (The Nihon Keizai Shimbun Award)

けぶらひて滝全長をまだ見せず 杉並区 境  惇子

ジャパンタイムズ社賞

ヒマラヤに細く冴ゆるや冬の月 渋谷区 北沢 一宏

稲畑汀子選

(特選)

できるだけ出来ることだけ草むしる さいたま市 原田 静子
亀鳴くや声なき声を聞けよとて 三田市 木下 さとし

(入選)

けぶらひて滝全長をまだ見せず 杉並区 境  惇子
近づけば近づく富士や蝶の昼 夷隅郡 岡西 宣江
海風も味の一つや夏料理 匝瑳市 田中  修
蜻蛉の捉ふ上昇気流かな 松山市 中野 匡子
どうだんの紅あざやかに秋を告ぐ 奈良市 大橋 孝子
子規の忌や英語嫌ひの野球好き 名古屋市 清水 京子
終戦日来てまた母の独り言 港区 青山 ゆり
風生れて明の明星露零す 練馬区 佐藤ゆう子
爽やかな旅立待ってゐる夜明け 金沢市 西田 梅女

鷹羽狩行選

(特選)

しばらくは正座崩さず白障子 川崎市 渡邉美奈子
白靴のままに通りぬ貴賓の間 杉並区 境  惇子

(入選)

すがるべきものなど無くて水中花 秋田市 和田  仁
レマン湖のほとり月光降り止まず 秋田市 和田  仁
ナマハゲは父と知りつつ泣き出しぬ 横手市 高橋  遙
古簾あかりほどよき父の部屋 狭山市 白崎 艶子
鰯雲組体操の最上段 茅ヶ崎市 塚本 治彦
風鈴や町にひとつの映画館 甲府市 清水 輝子
夕やけや駱駝瘤より立ちあがる 杉並区 境  惇子

宮坂静生選

(特選)

星月夜土偶眼を瞠るなり 函館市 船矢 深雪
すぐそこに戦さの匂ひ薔薇ひらく 杉並区 和田とし子

(入選)

返らざる島見ゆ番屋夏炉焚く 豊中市 小畑 晴子
葉月潮神威岬にとどろけり 豊中市 小畑 晴子
知れば知るほど露の世の未知の国 西宮市 柄川 武子
玉虫の飛び交ひ一樹輝かす 大牟田市 古賀 昭子
空在らば泰然自若夏大根 広島市 神山 姫余
戦爭に捻子のきかざる時計草 夷隅郡 岡西 宣江
飯蛸の甘辛炊きの乱舞かな 杉並区 和場ゆすら
不倫など縁なき案山子夫婦かな 武蔵野市 佐藤 正昭
水鳥を見てゐて水鳥の気分 千代田区 坂東 文子
鳥渡るなき子のゆくへ寄り添へず 神戸市 熊岡 俊子

有馬朗人選

(特選)

露滂沱なる草原にゲル畳む 豊中市 小畑 晴子
ヒマラヤに細く冴ゆるや冬の月 渋谷区 北沢 一宏

(入選)

返らざる島見ゆ番屋夏炉焚く 豊中市 小畑 晴子
涼風や北斗の一つ明滅す 草加市 江口 靖子
一椀の茶に偕老の冬ぬくし 文京区 岡田  弘
鬼の子の声たてず鳴く堂の軒 勝浦市 浅野 航秀
銀河濃し藍の匂へる機織女 広島市 水田 博子
国境のきはまで黍の枯れすすむ 杉並区 境  惇子
澄む水に加賀友禅の彩流す 江東区 千葉日出代
木槌打ち始まる法会秋高し 安芸郡 小早川一真
漁り火を浮かせし湾の星月夜 京田辺市 佐々  宙

安西 篤選

(特選)

空蟬や還らぬ兵の一張羅 夷隅郡 越川  悟
振れば鳴る終戦の日のサクマドロップ 杉並区 和田とし子

(入選)

戦争を知らぬ私の十二月八日 八王子市 福岡  悟
激戦の地や隔てなく草茂る 半田市 稲葉 京閑
千の風吹きて沖縄慰霊の日 船橋市 村田 敏行
訥弁を悔いなく生きて草の花 香取郡 菅谷 貞夫
ドナーより貰ひし春のまぶしさよ 夷隅郡 越川  悟
帰らざりし老いの日本語鳳仙花 練馬区 吉竹  純
国境のきはまで黍の枯れすすむ 杉並区 境  惇子
鳥帰る地下の木乃伊に緋の衣 宜野湾市 筒井 慶夏
一枚の国境のなき星月夜 神戸市 池田雅かず
終戦日来てまた母の独り言 港区 青山 ゆり

星野恒彦選

(特選)

セルロイド・ブリキの記憶浮いて来い 杉並区 和田とし子
畑仕事了ひ一本大根抜く 鳥取市 山内 旦海

(入選)

泣く声もしぶきのひとつプールの子 さいたま市 原田 静子
子の運ぶ七夕竹の道を掃く 川崎市 飯川 三無
新涼や石灯籠の中に猫 久喜市 梅田ひろし
のびのびと蟬となりたる声を上ぐ 仙台市 幸野  峰
群離れ大河さまよふ布袋草 杉並区 境  幹生
一灯(いっとう)を分けて夫婦(めをと)の夜長かな 小牧市 鈴木 滋三
柔らかに煮え秋鯖の背の厚み 練馬区 三宮麻由子
口開けてバッハ聴く秋歯科の椅子 常陸太田市 加藤 申女
籾殻の燻る匂ひ里近し 菊川市 中山 菊枝
通り雨音立ててゆき夜の秋 久留米市 谷川 章子

永田龍太郎選

(特選)

すがるべきものなど無くて水中花 秋田市 和田  仁
削られて瘦せゆく渓の紅葉かな 多賀城市 小松 温美

(入選)

ゆくりなく嫁入り舟に花あやめ 日野市 草苅 幸風
村貧しされど律儀やカンナ燃ゆ 夷隅郡 岡西 宣江
在りし日の父ゐて庭の薔薇五彩 横浜市 相沢恵美子
一椀の茶に偕老の冬ぬくし 文京区 岡田  弘
嵐山風情豊かに綾錦 川崎市 山浦 恒子
今年竹破竹の勢い十四歳 武蔵野市 佐藤 正昭
鰯雲今ガンジーの強さ欲し 草加市 片岡 宏文
僧去りて風吹き抜けの施餓鬼堂 秩父市 須田 真弓

大輪靖宏選

(特選)

春田打つ土を尊きものとして 船橋市 猪瀬 達朗

(入選)

すがるべきものなど無くて水中花 秋田市 和田  仁
西瓜割る忿怒の色に真つ二つ 秋田市 和田  仁
鈴虫を鳴かす銀座の老舗かな 杉並区 田中あき子
囲の蝶をつと抱きよせて女郎蜘蛛 武蔵野市 杉山やよひ
八月の生者に広き海のあり 廿日市市 日比野さき枝
春宵の菩薩の小指なまめかし 勝浦市 浅野 航秀
けぶらひて滝全長をまだ見せず 杉並区 境  惇子
化野(あだしの)も鳥辺野(とりべの)も暮れ冬の月 小牧市 鈴木 滋三
口紅を懐紙におさへ多佳子の忌 南国市 秋本 弘子

今瀬剛一選

(特選)

ガンジスの流れゆるやかつばくらめ 杉並区 境  幹生

(入選)

すがるべきものなど無くて水中花 秋田市 和田  仁
しばらくは正座崩さず白障子 川崎市 渡邉美奈子
庭石に影をふやして赤とんぼ 夷隅郡 岡西 宣江
蜻蛉の捉ふ上昇気流かな 松山市 中野 匡子
眠りつつ笑ふ嬰子涼新た 春日井市 西村 青夏
けぶらひて滝全長をまだ見せず 杉並区 境  惇子
水鳥を見てゐて水鳥の気分 千代田区 坂東 文子
空を飛ぶ帚に白夜明けにけり 南国市 秋本 弘子
風を呑み芒が原はゆがみけり 中野区 髙岡由美子

大久保白村選

(特選)

荒神輿掛け声だけが揃ひをり 秋田市 和田  仁
子規の忌や英語嫌ひの野球好き 名古屋市 清水 京子

(入選)

露滂沱なる草原にゲル畳む 豊中市 小畑 晴子
皇寿まで生きんと握手敬老日 豊中市 小畑 晴子
激戦の地や隔てなく草茂る 半田市 稲葉 京閑
遣唐使渡りし海や鰯雲 茅ヶ崎市 塚本 治彦
御隠居と留守をあづかる夏炉かな 夷隅郡 岡西 宣江
春うらら絶滅危惧種日本人 夷隅郡 越川  悟
剣を突く天下御免の雉の声 夷隅郡 岡西 宣江
馬の尾のさらりと揺るる白露かな 仙台市 幸野  峰
夏座敷風の一等席は猫 神戸市 池田雅かず
秋の風吹けばおのづと旅心 金沢市 西田 梅女

加藤耕子選

(特選)

返らざる島見ゆ番屋夏炉焚く 豊中市 小畑 晴子
包に寝て夢の中まで星流る 大阪市 西上 禎子

(入選)

荒潮をかすめて来たるつばくらめ 秋田市 和田  仁
振り返るほどに音すむ遠花火 福山市 藤井 茂基
千の風吹きて沖縄慰霊の日 船橋市 村田 敏行
漱石の通いし湯屋の釣忍 深谷市 中村 和江
核と核狭間の国や蝶生れる 八千代市 若林 佐嗣
夾竹桃かの閃光をな忘れそ 草加市 江口 靖子
子規を恋ひ虚子恋ふ伊予の夕かなかな さいたま市 古郡 孝之
お花畠テント暮しの養蜂家 瀬戸市 浅野まこと
フクシマ被曝ひと住めぬ町虫時雨 多摩市 有坂 花野
春田打つ土を尊きものとして 船橋市 猪瀬 達朗

大高霧海選

(特選)

澄む水に加賀友禅の彩流す 江東区 千葉日出代
大夕焼ムンクの叫びきこえさう 杉並区 草野 准子

(入選)

子規を恋ひ虚子恋ふ伊予の夕かなかな さいたま市 古郡 孝之
曼珠沙華除染の村の七回忌 熱海市 菊池 熱海
夾竹桃かの閃光をな忘れそ 草加市 江口 靖子
なまはげや羽後の大地を踏み鳴らし 秋田市 和田  仁
寒鰤を釣つて怒濤を持ち帰る 秋田市 和田  仁
琵琶弾ず平家哀しや虫の闇 松山市 中野 匡子
天高し永遠にバベルの塔未完 神戸市 熊岡 俊子
革命も恋も秘めたる薔薇真紅 杉並区 和田とし子
露滂沱なる草原にゲル畳む 豊中市 小畑 晴子

ハイク部門

選者

木内 徹 選(Selected by Toru Kiuchi)
木村 聡雄 選(Selected by Toshio Kimura)

特選 (Prize Winners)  木内 徹 選 (和訳共)

spring cleaning...
a free space for echoes
in the basement
Barnabas I. Adeleke(Nigeria)


春の掃除
広いスペースに谺
地下室の
バルナバス・I・アデレケ(ナイジェリア)

In a rocky language
mountain guides sing
mysteries of the Alps
Pierre Nabhan(France)


ごつごつした言葉で
山の案内人が歌う
アルプスの神秘を
ピエール・ナブハン(フランス)

入選 (Honorable Mentions)  木内 徹 選 (和訳共)

tomato season…
in the hand of each picker
a succulent sun
Ali Znaidi(Tunisia)


トマトの季節……
摘む人の手に
みずみずしい太陽が
アリ・ズナイディ(チュニジア)

freezing night
from a star to a star
magpie’s wings
Alexey Andreev(Russia)


凍る夜
星から星へ
鵲の翼
アレクセイ・アンドレエフ(ロシア)

between barbed wires
a child and a refuge
look up to the sky
April Mae M. Berza(Philippines)


鉄条網の間から
子供と難民が
空を見上げる
エイプリール・メイ・ベルザ(フィリピン)

in the sand
the sun crushed
into pieces
Branka Vojinović Jegdić(Montenegro)


砂の中で
太陽がつぶれる
こなごなに
ブランカ・ヴォイノヴィッチ・イェグディッチ(モンテネグロ)

特選 (Prize Winners)  木村 聡雄 選 (和訳共)

moon halo...
prayers that grandma
taught me
Samantha Sirimanne Hyde(Australia)


月に暈...
おばあちゃんから
習ったお祈り
サマンサ・シリマン・ハイド(オーストラリア)

Remembrance Day
different stories
about my father
Cezar-Florin Ciobîcă(Romania)


英霊記念日
父には
別の物語
セザール=フローリン・チオビーチャ(ルーマニア)

入選 (Honorable Mentions)  木村 聡雄 選 (和訳共)

deforestation
a pine tree falls
on its own shadow
Hifsa Ashraf(Pakistan)


森林伐採
松は
自分の影へと倒れ
ヒフーサ・アシュラフ(パキスタン)

paper animals unfold
becoming like paper again
Allan Saylor(U.S.A.)


折り紙の動物開けば
また紙に
アラン・セイラー(アメリカ)

old oak
still serves
as a marker
Vishnu P Kapoor(India)


樫古木
目印として
なお立てり
ヴィシュヌ・P・カプール(インド)

Sepia photos
faces we once knew
flowers with no names
Mack[David McMurray](JAPAN)


セピアの写真
なじみの顔と
名もない花
マック[デイヴィッド・マクマレィ](日本)