俳人紹介

永瀬十悟「ふくしま」2011年角川俳句大賞

激震や水仙に飛ぶ屋根瓦

無事ですと電話つながる夜の椿

燕来て人消える街被爆中

しやぼん玉見えぬ恐怖を子に残すな

避難所に春来るキャッチボールかな

風評の苺せつなき甘さかな

(受賞作50句より抄出)

受賞者の永瀬十悟氏には、須賀川俳句教室の事務局担当者として、長い間お世話になっている。永瀬氏は在住の地、須賀川をテーマにして東関東大震災による被害を描いた。その作品50句が、第57回角川俳句賞を受賞した。

永瀬氏は、新聞のインタビュー(2011年9月7日付、福島民友)に次のように答えている。その概略を記す。

このたびの受賞は、大変光栄だが、自然災害や原子力発電所崩壊によって蒙った被害を考えると、非常に複雑な思いがある。自分は俳人として福島の現状を伝えたいと思ったが、心の中には怒りがこみあげてきて、とても俳句を作れる状態ではなかった。物理的、心的に回復するには時間を要したが、自然を詠み、特に自己に拠る不条理を詠みたいという意欲がようやく湧いた。

よく知られている作家に、原民喜がいる。第二次大戦中の広島の原爆被害を生涯かけて綴り、悲惨な状況を世の中に訴えた。この民喜のように、私も福島の置かれている事態を描いてゆきたい。

我が家も半壊の憂き目に遭ったが、福島の自然や日常生活を詠み続けることにより、直面している困難を克服したいと思う。

(俳人紹介 角谷昌子)